表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
郊外の杖工房 ―十五秒・一筆の軌跡―  作者: 木兎太郎
〈第一章:仕事を知る〉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/16

012 商売相手


◇―◇―◇


 馬車に揺られること二十分が経過。

 レトは、もう十分に尻が痛かった。

 

 軽く経緯を説明する。

 ユゼフの許で衣服を購入。

 この時点で十四時を過ぎていた。

 スカーレット・パーチに帰還。

 十五時に馬車の迎えが到着。

 クライブとアカネは堂々と乗車。

 膝を笑わせながらレトが続いた。


 そして、今に至る。


 何もせずとも、馬車の扉が開かれる。

 先に二人が降りて、その後にレトは続いた。


 ……ここは本当にアーキルム?


 というのがレトの初見の感想である。

 奥に見える巨大な屋敷。

 一つ手前の広大な庭園。

 敷地全体を囲む背の高い鉄柵。

 目の前に門番が二人。

 もはや、レトは怯え始めていた。


「ニッシッシ、そんな緊張するな」

「こればかりはクライブの言う通りね」

「わ、わわ、わかりました」


 期待のできない返答である。

 そっとアカネの手がレトに伸びる。

 レトは彼女の手を見て、目を見開いた。

 手のひらサイズの瓶が握られている。


「……こ、これって?」

「――酒よ。緊張がほぐれるわ」

「わ、わたし、まだ十五です」

「大丈夫、これはワインだから」

「あの、普通に駄目です」


 レトはアカネの手を押し返した。

 彼女は渋々といった感じで酒を上着のポケットに戻した。


 しかし、今の問答で少し緊張がほぐれた。

 深呼吸をして、改めて気持ちを作り直す。

 それからレトはクライブに視線をやった。


「ど、どうかな? もう大丈夫だよね?」

「その服装のことか?」

「う、うん、この服装のこと」


 また別の意味を持つ動悸が始まる。

 レトはクライブの返答を健気に待った。

 クライブの視線がジッとレトを捉える。


 クライブとは対照的に、白を基調としている。

 胸元にはトーンを落とした皮鎧。

 上衣は薄手のフリルつきシャツだ。

 優しく広がる腰までのスリット入りスカート。

 その下には黒い短パンを履いている。

 主張は強くないが、実に美しく洗練されている。

 今日の役割『護衛』にあった服装である。

 クライブは顎を撫でつつ一つ頷いた。


「――綺麗だ。生まれ変わったみたいだぞ」

「あ、ありがとう。照れちゃうな」

「――当然よ、私が支払ったんだから」


 と、アカネの言葉が差し込まれる。

 今回のお会計はアカネが請け負った。

 例の100%の取り分から、ということらしい。


 御者と門番がアイコンタクトを取る。

 無事に門は開かれ、アカネが先陣を切った。

 それからクライブ、レトの順に庭を進む。


「普通は屋敷の前まで馬車なんじゃ?」

「地面を見なさい」


 アカネの指示に従って視線を降ろした。

 余すことなく芝が植えられている。

 左右には花畑が広がっていた。


「も、もしかして芝を傷つけたくないから?」

「そうよ。自然を愛する人なの」

「そ、そうなんですか」


 会話の最中に、ついに屋敷に到着した。

 大理石の柱が伸びる、石材を使った建築である。

 純白の大きな扉が、手前に屋根を伸ばして待ち構えている。

 縁には金の飾りまであって、レトは絶句していた。


 ノックする前に、中から執事が出てくる。

 白髪のオールバックとタキシード。

 どこかユゼフにも似た老紳士である。

 彼は三人に向かって深々とお辞儀をした。


「ご主人様が御待ちしております。どうぞ、こちらへ」


 執事は頭を上げて、さっそく先導を始めた。

 三人は執事の後に続いて屋敷の中を進んでいく。

 レトは視線を至る所へ巡らせていく。

 白を基調とした内装で、埃一つ見えなかった。

 それに通路にまで赤い絨毯が敷かれている。

 天井には一定間隔で室内灯が設置されていた。

 普段見る魔具より明らかに光量が強い。


 隅々まで資金が投入された豪華な御屋敷。

 それがレトの得た大まかな印象である。


「こちらでございます」


 三人に代わって執事が扉をノックした。

 中から「入ってくれ」と短く答えが返ってくる。

 やや嗄れた声だった。

 執事は軽く頭を下げながら扉を開いた。

 そのまま入り口の横に立って御辞儀をする。


 招かれるままに、三人は扉を潜った。

 あまりの美しさにレトは言葉を失う。

 夕暮れが天井から降りてきているのだ。

 大きな円形の天窓があり、陽光を部屋に迎えている。

 その周囲には、長さ違いのガラスのシャンデリアが幾本も下がる。

 ある種の不均一さが、飽きさせない魅力を作っていた。

 さらには大理石の支柱が計四本。

 どれもよく磨かれて光を反射している。

 床には芝のように深い緑の絨毯。

 この部屋は自然をモチーフにしているのかもしれない。 

 中心部には計四つのソファと机が一つ。

 壁際には複数の棚が並んでいる。

 中には大きな瓶で作ったテラリウムが飾られていた。

 とても珍しい趣味だが、レトは好ましく感じた。


 執事に案内されるがままに部屋の中心へ。

 先んじてアカネが、屋敷の主人の前に立つ。

 そこでレトは少しだけ驚いていた。

 この場には主人だけでなく娘も居たのだ。

 どちらも洗練された佇まいをしている。

 

 勿論、アカネは動じなかった。

 先に依頼内容を知っていたから、というのもある。

 アカネは深々とお辞儀をして敬意を示した。

 それに習ってクライブとレトも頭を下げる。


「本日は御招きいただき光栄にございます。スカーレット・パーチより参りました。アカネと申します」

「いえいえ、わざわざご足労いただき感謝いたします。私は【エルエル・ド・アーキルム】と申します。仲間内からは【エル】と呼ばれているので、皆様方も気軽にエルと呼んでください。一応は王族の端くれではありますが、遠縁もいいところですので……それに取引相手とは立場を対等に、との信条もあるのです」


 と言って、あえてエルは立ち上がった。

 三人と同じ分だけ頭を下げる。

 それから一人ずつに握手を求めてくるのだ。


 もはや、レトは緊張で失神しかけていた。

 ――紛れもない王族である。

 遠縁だとかの謙遜は、レトからすれば細事であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ