表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現れたのは、死んだはずの君  作者: くじら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/4

エピローグ





 それから、数年が経った。


 大学を卒業して、就職して、

 俺は――ちゃんと、生きていた。


彼女が望んだ通りに。


 忘れたわけじゃない。

 忘れられるはずもない。


 ただ、思い出は少しずつ

 「痛み」から「温度」に変わっていった。


 ある春の日の午後。

 仕事帰りに、俺は公園の前を通りかかった。


 ブランコの軋む音。

 子どもたちの笑い声。


 ふと、視線を感じて足を止める。


 小さな女の子が、こちらを見ていた。


 四、五歳くらいだろうか。

 桜色のワンピースを着て、

 母親の手を握りながら、じっと俺を見つめている。


 ――理由は分からない。


 なのに。


 胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。


 女の子は、俺と目が合うと、

 一瞬だけきょとんとした顔をして――


 それから。


 にこっと、笑った。


 見覚えのある笑い方だった。


 視線を落としてから、

 ほんの少し照れたように笑う、その癖。


 心臓が、大きく跳ねる。


「……」


 名前を呼びそうになって、

 俺は口を閉じた。


 当然だ。

 彼女は、俺を知らない。


 俺も、彼女に触れる資格はない。

――もう、守る役目は終わったから。


 それでも。


 すれ違う瞬間、

 女の子はもう一度だけ、振り返った。


 理由なんてないはずなのに、

 それが、とても大切なことのように思えた。


 俺は、小さく息を吐いて、空を見上げる。


 春の空は、驚くほど澄んでいた。


きっと、もう。

俺が手を引く必要はない。


「……行ってこい」


 誰にともなく、そう呟く。


 きっと、それでいい。


 彼女は、ちゃんと次の人生へ行った。

 俺も、ちゃんと前に進んでいる。


 同じ道は、もう歩けない。

 それでも――


 あの恋が、

 間違いじゃなかったことだけは、

 胸を張って言える。


 公園を離れる俺の背中で、


小さな笑い声が、

もう振り返らなくてもいいくらい、

春風に溶けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ