第36話『雷、風を裂く』
踏み込んだ瞬間、戦場の空気が一変した。
ライゼルの身体にまとわりつく雷が、まるで獣のように唸りを上げながら解き放たれる。
一直線──狙うはただひとつ、イェルダ。
イェルダは反応こそ淡々としていたが、風の層を幾重にも重ねていく速度は鋭かった。
空気がきしみ、ライゼルの進路が歪む。
雷の軌道が押され、少しずつ逸らされていく。
だが、ライゼルは足を止めない。
「そんな薄い壁で俺を止められると思うなよ!」
風が唸り、雷が裂ける。
その度に砂塵が舞い上がり、戦場に白い煙が広がった。
イェルダはさらに風を重ねる。
押し返すだけではなく、雷の“角度”そのものを曲げる、精密な制御だった。
普通なら方向を奪われ、突破は不可能に見える。
──だがライゼルは、とうに読み切っていた。
「曲げるならその分、力をぶつけりゃいい!」
雷が肩から腕に集中し、肌の上で小さな稲妻が跳ねる。
その光に照らされ、ライゼルの表情が鋭く浮かぶ。
「正面突破だ──ッ!!」
踏み込んだ瞬間、雷光が爆ぜた。
イェルダも風を一点に凝縮し、“壁”ではなく“槍”のように押し返す構えに変える。
風と雷が衝突し、世界が一瞬真っ白に染まる。
大気が圧縮され、地面が沈む。
だが──
押したのは、雷。
イェルダの風が一層、また一層と剥がれ落ち、雷光がその中心を貫いた。
「ぶち抜けぇぇッ!!」
轟音が戦場を揺らし、雷が漆黒の空気を裂いた。
イェルダの胸部に雷撃が突き刺さる。
雷の柱が弾け飛び、イェルダの身体が大きくのけ反った。
次の瞬間──
風の気配が完全に止まる。
イェルダは崩れ落ち、そのまま動かない。
完全撃破。
砂煙の中、ライゼルは大きく息を吐いた。
「……一体、落ちた。」
拳を握り、胸の奥で雷が小さく弾ける。
倒したという実感よりも、仲間の背中が少し軽くなる気配に胸が熱くなる瞬間だった。
視線の先では、まだ四体の影が暴れている。
だが今のライゼルの目は、恐れではなく光を帯びていた。
「ここから巻き返す!全部倒すぞ。」
雷が再び走った。




