第30話『星滅級《せいめつきゅう》 ネヴラ=ヴォルグ』
空気が張り詰めた。
風ではなく、音でもなく──
“神気そのもの”が硬質に変わる。
胸が圧迫されるほどの重み。
肺が拒むほどの圧。
肌に刺さるような異界の神気。
ガルザスが低く唸った。
「……来る!」
次の瞬間、戦場の空に黒い亀裂が走る。
裂け目から吹き出したのは、この世界のものではない歪んだ神気。
灼けるように冷たい。
軽いのに重くのしかかる。
光っているのに闇のように沈む。
裂け目が開いた。
黒い外套を纏う人影が、静かに降りてくる。
その肌は、夜の底のように深い黒。
彫りの深い顔立ち。
無表情でありながら、その瞳だけが底知れぬ深さを湛えていた。
視線が一度だけこちらを撫で──
空気がビリビリと全身を刺した。
ネヴラ=ヴォルグ
名を知らずとも理解できる。
この存在は、“この星を滅ぼせる側” のものだと。
ネヴラが地に降り立つと同時に──
影の5体が膝をついた。
主君への絶対の忠誠。
それは恐怖ではなく、“格の差” がもたらす自然な秩序。
神将級が相手なら互角以上に渡り合える五人の神子たちは、初めて“見たことのない光景”を目の当たりにした。
ネヴラは瞳一つ動かさず、静かに周囲を見渡した。
その声は、深く低く、世界を震わせた。
「静かな星だな……奪うにはちょうど良い。」
空気が軋む。
神子5人は、その言葉だけで理解した。
(……今ここで止めなければ、この星は終わる)
言葉はいらなかった。
神気が“戦え”と叫んでいた。
「行くぞ!!」
ガルザスの叫びと同時に、五人が全力で地を蹴った。
雷、大地、影、光、観測──
それぞれが全力を乗せて放つ五連の神技。
触れた瞬間、この世界ごと吹き飛ぶはず程の威力。
しかし──
ネヴラのわずか手前で、五つの攻撃は跡形もなく消えた。
否定されたわけではない。
弾かれたわけでもない。
ただ、存在しなかったことにされた。
リュミエルが息を呑む。
「……そんな……!」
ネヴラは微動だにしない。
外套の裾だけが静かに揺れた。
「始めよう。」
それだけだった。
五人は息を呑み、次の一撃の構えを取る。
戦場に、重い沈黙が落ちた。




