表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神統のレガシア 〜異端の孫は混沌を継ぐ〜  作者: Ren.S
序章 神子の継承戦記

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/41

第28話『無観測の手』

ラグド=オラの姿が視界から滲み消える。

そこに存在するのに、認識させてもらえない。

見えず、聞こえず、未来も視えない。


それでも──


セリオスは息を整えた。


(観測できないのなら……“存在の痕跡”で位置を掴むしかない)


視覚も聴覚も信用できない。

だが、たった一つだけラグド=オラでも隠せないものがある。


──重さだ。


存在がある以上、空気の流れ、地の反響、体温……

微細な“ゆらぎ”だけは消しきれない。


セリオスは片足を大地に押し付け、地の震えを拾った。


(……いた!)


ほんの僅か。

一息ぶんの微量な振動。

それがラグド=オラの位置を教えてくれた。


セリオスはそこへ向け、手を伸ばす。


だが、触れられない。


手のひらが空気に触れた瞬間、輪郭がにじむ。


「存在を掴むな。」


ラグド=オラの声だけが耳の奥で鳴った。


次の瞬間、セリオスの腕に鋭い衝撃が走る。


「っ……!」


ほんの一撃。

だが、観測できない攻撃は致命的に怖い。


腕が勝手に震え、思わず後退してしまう。


それでも、セリオスは踏みとどまった。


(触れられない……でも触れにいった時だけ、奴の周囲が揺れた!)


攻撃をしようとした瞬間、ラグド=オラが反応した。


反応するということは、その時だけ存在は確かにある。


つまり──


攻撃という行動そのものが、唯一の観測手段。


「……分かってきたぞ」


セリオスが低く呟いたその瞬間、ラグド=オラの輪郭がふたたび揺れた。


敵の声が周囲に染みるように広がる。


「理解したつもりか。」


「いいや。つもりじゃない。」


セリオスは踏み込む。

観測できない影へ、迷いなく手を伸ばす。


ラグド=オラが反応する──


世界が一瞬だけ濃くなる。


その濃さを、セリオスは見逃さなかった。


「……そこだ!」


空気の“密度”の変化。

わずかな震え。

呼吸の乱れ。


全部を一瞬で読み取り、

掴むつもりで掌を向ける。


──しかし。


空間そのものがねじれ、セリオスの手は空へすべり落ちた。


「な……!」


ラグド=オラは静かに告げる。


「掴めると思った瞬間……観測は閉じる。」


攻撃しようとした瞬間、敵は“存在そのものを畳んでしまう”。


セリオスは地を蹴って距離を取る。


「……攻撃の瞬間だけ、姿を現す。でも、その瞬間に畳まれる……」


(行動そのものが、観測できる唯一のタイミングでありながら、同時に最も観測できないタイミング……)


完全な矛盾を前にして、額に汗がにじむ。


ラグド=オラの声が、今度ははっきりとした“冷え”を帯びた。


「理解は無意味。」


次の瞬間、地面が静かに沈む。


空気が押し潰されるように重くなる。


セリオスは息を呑んだ。


「……来る!」


ラグド=オラの姿なき攻撃。

これまでより濃く、深く、重い。


観測できないまま、戦いはさらに深淵へ潜っていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ