第10話『歪む空の裂け目』
昼下がりの訓練場に、突然乾いた音が鳴り響いた。
「……いまの、聞こえたか?」
ライゼルが眉をひそめる。
ガルザスも大地に手を当て、わずかな震えを確かめた。
「大地の流れが……一瞬だけ切れた」
「切れた?」
リュミエルが目を丸くする。
「そんなこと、あるの?」
「通常ならない」
セリオスが静かに答える。
「何かが“外側”から干渉している」
その言葉と同時に──
空が、裂けた。
雷光のようでも、影のようでもない。
ただ、布を引き裂くように空間が破れ、ねじれた黒い穴が露出した。
「な、なんだあれ……!?」
ルナリアが影を揺らしながら後ずさる。
裂け目から、
“それ”はゆっくりと落ちてきた。
三本の脚、歪な身体。
獣とも人ともつかない輪郭。
神気も生命力も感じない。
だが、それが放つ“存在の気配”は異様だった。
リュミエルが息を呑む。
「あれ……生き物、なの?」
セリオスが即座に判断する。
「構造がこの世界の生物とは明らかに違う。神気の密度・骨格の波形・脚の曲がり方…… 断界種の個体だ。階級としては最下級……“戦獣級”と見ていい。」
ライゼルがにやりと笑った。
「へぇ、敵ってわけか。よし──任せろ!」
彼の身体に雷気が走り、刹那、光の槍が放たれた。
ズガァンッ!!
一撃。
それだけで戦獣級の魔物は吹き飛び、砂のように崩れ落ちる。
「弱ぇな!」
「ライゼル、調子に乗るな」
ガルザスが呆れ気味に言う。
「だが……確かに、手応えは軽かった」
セリオスは裂け目を見つめたまま、表情を険しくした。
「問題は“強さ”ではない。なぜこの世界に……侵入口が開いたのか、だ」
ガルザスが拳を握る。
「この程度なら問題ない。もっと来ても叩き潰すだけだ」
しかしルナリアは、空間の裂け目から漏れる“影の波”に震えていた。
「……あれは、たぶん…最初の一体にすぎない」
リュミエルがルナリアの肩に手を置く。
「大丈夫。みんなでなら守れるわ」
空の裂け目はゆっくりと閉じ、静かに消えた。
まるで“試すように”ひとつだけ放たれた敵。
その違和感はあったが、脅威は感じられない。
神子たちは互いに目を合わせ、
軽く笑った。
「まぁ、こんなのが相手なら心配いらねぇよな」
「……ああ」
誰もがそう思った。
このときはまだ──
“本当の侵略”が始まったことを誰も知らなかった。




