第9話『ひとときの休息』
三日の見回り任務を終えた翌朝、神子たちは久しぶりに穏やかな空気の中で過ごしていた。
ガルザスは訓練場の片隅で巨大な岩を持ち上げたり、そっと置いたりしている。
「相変わらず休む気ゼロだな、お前」
ライゼルがパンを咥えたまま笑った。
「休んでいる」
ガルザスは平然として言う。
「軽い運動は、休息の一部だ」
「いや、誰もそんな休息しねぇよ!」
周りで見ていたリュミエルが笑みをこぼす。
「ガルザスにとっては普通なんだと思うわ。風邪をひかない身体って、羨ましい」
「風邪って……神がひくの?」
ルナリアが不思議そうに首を傾げる。
「ひかないわよ」
リュミエルがくすっと笑った。
「比喩よ、ルナリア」
ルナリアはあたふたと手を振る。
「そ、そうだよね……!ちょっと安心た」
セリオスは少し離れた場所で帳面を見直していたが、そのやり取りを耳にして顔を上げた。
「ルナリア、疲れはもう取れたか?」
「う、うん……ありがとう。大丈夫だよ」
「森の“静けさ”についても、特に危険性は感じられなかった」
と、セリオスは淡々と続けた。
「しばらくは様子を見るだけで良いだろう」
「そっか……よかった」
ルナリアの表情が少しだけ明るくなる。
そこへ、パンを食べ終えたライゼルがひょいとルナリアの肩に腕を乗せた。
「よし! 今日こそルナリアにも“雷の初歩”くらい教えてやるか!」
「え!? わ、わたし雷使えないよ!」
「影と雷、相性悪くねぇだろ。ちょっとビリッてするだけだ!」
「ビリッ!?いやだよ!?」
ガルザスがその光景を見て、珍しく微笑んだ。
「……加減できるのか、ライゼル」
「任せろ! 優しくいくって!」
セリオスが静かに、しかし鋭く言う。
「優しく、の基準が君は信用できない」
「ひでぇ!?」
すると、少し離れたところからエルヴィアが歩いてきた。
「皆さん、今日は休息の日です。過度な訓練や実験は控えてくださいね」
ライゼルは肩をすくめる。
「ちぇっ……見られたか」
「見ていなくても、気づきますよ」
エルヴィアは優しく微笑んだ。
「あなたたちはとてもわかりやすいので」
その言葉に、神子たちは思わず笑い合った。
風も、大地も、影も、光も
この日はいつも通り穏やかに満ちている。
特別な事件もなく、変わったこともない。
ただ、静かで明るい日常のひとときだった。




