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第七章

 存在しているのかわからない芸者を様々な旅館へ話を聞きに行っていた二人であったが、ここで四番宿へも話を聞きに行った。

 玄関へ入ると、そこに柳田がおり、二人を見て頭を下げた。

「どうも、お疲れ様です刑事さん。犯人が早く見つかればいいですね。この温泉街も悪い噂が出てきそうで」

 その言葉に小野は皮肉と取り、不快な気持ちを持った。岸本はどう思っているのかはわからない真っ直ぐな目を柳田に向けていた。

 そこにやってきた女将に柳田は叱られ、その場を後にした。

「申し訳ございません。いつも余計なことばかり言っていて。前の時にもそう言ったことを言ったり....」

「まあ、ほんの少しだけですが」

女将は大きく頭を下げて謝罪した。柳田の姿はもう見えなくなっていた。

 二人は再び、旅館の個室に通された。そこで、主人に事情聴取を行った。

「度々申し訳ございません。実はあの日、被害者は芸者を呼んでいたそうなんですが、それがどうも、この温泉街にある四つの組合の芸者ではないという疑惑がありまして。女性らしくない芸者ということなんです。ご存知ですか?」

「いや、わからないですね。私はいつもここで仕事をしていて、あまり芸者とかを見ることはないもので、女将でしたらわかるかと」

「では呼んでもらって、お二人にお話を聞きましょう」

 やがて、主人に呼ばれた女将がやってきて、主人の隣に腰を掛けた。

「女将さん、この温泉街に芸者で、男のような芸者を知っていますか?」

「男らしいってどんな?」

「そうですね。野生的な印象であるそうです」

 女将は考える素振りを見せたが、小野にはそれが二人に見せてるだけで、何も考えてはいないように見えた。

「見たことはないと思います」

 小野はこの疑惑がいよいよ無意識に確信へと変わっていくように思えてきた。

「では、事件のあった日、四番宿では芸者を呼んでいたか覚えていますか?」

「恐らく呼んでいたと思います」

「恐らくというのは?」

「ほぼ毎日、芸者はこの宿を行ったり来たりしているからです。むしろ芸者がいない日の方が珍しいくらいです」

「なるほど、そうなると、芸者は来ていたと」

「はい、それとあの日はうちの従業員が芸者を呼んだお客様に絡まれていたのを今になって思い出しました」

 女将の表情に小野はこれは嘘ではないような気がした。ふとした記憶が鮮明に甦ったのだろうと思われた。

「先程の柳田という従業員です。恐らく、お客様に余計な事を言ってしまったのだろうと思います。お叱りは受けてないと思いますが」

 小野はこの針に糸が通ったときのような嬉しさと驚きが体に電気を流したように感じた。

「思いますと言うと?客から苦情があったわけではないのですか?」

 岸本の声色にも小野と同じようなものが感じられたようであった。

「ええ、本人から。そんなことは言わなくていいのにと思いますがね。お客様の所に言ってからしばらく、経っても戻ってこなくてやっと戻ってきた時にそんな事を言ってました」

「なるほど、客からではなく本人から聞いたんですね?」

「ええ、一人で隠れてこそこそ悪い事をしてるのかとも思いましたが、二十分も遅れるのであれば確かに絡まれていたとしても不思議ではないと思います」

 女将はそう言って、柳田を擁護していた。岸本も柳田を疑ってない風を装った。

 その後、少しの事情聴取を終えて、二人は四番宿を後にした。

「今はこの予想を答えに照らし合わせるときだ。小野、慎重にやるぞ」

 岸本は小野の肩を叩きながら言った。

 そしてその夜、小野は一人で温泉街を散歩していた。歓楽街のような時間を過ぎ、静かな夜を見せるこの石段に立ち、小野はふと、十番宿の前にまで来た。右を見たら十番宿、そして反対側を見たら四番宿があった。そして宿の外で暗闇の中でビール瓶を運んでいる柳田の朧げな姿が目に入った。

「やあ、お疲れ様です」

 小野は柳田に声を掛けた。

「あ、刑事さん。昼間はどうも。まだ時間は掛かりそうですか?」

「いや、それがそうでもないんですよ」

 柳田は澄ました顔を見せた。

「他の宿から、殺人に使ったと思われる刃物が見つかりましてね。だが、それだけが見つかるのはどうもおかしいのですよ」

「何故?」

 柳田は顔を青くしていたが、暗闇の中では小野にはわからなかった。

「血で汚れた他のものがない。例えば服と言ったものが」

「洗ったのでは?」

「けれど、何故ばれないのか?今は共犯がいると踏んで捜査中です。内緒なんですが、近いうちに温泉街の宿を全て家宅捜査する予定です。なので四番宿にも伺います。これは主人や女将には言わないでおいてください。どんな些細な事も見逃したくないのです」

「言わないですよ。しかし、僕に言っていいのですか?」

 柳田の声にそこまで震えはなかったが、それを押し殺してるような間はしっかりとあった。小野はそれを聞き逃さなかった。

「上に知られなきゃいいんです。私は六番宿の人にはもう言ってしまいました。人に見られて恥ずかしいものなどは他に隠したりするように。こう、長く滞在してると宿の人とも仲良くなったりするんです」

「ああ、そうですか。忠告ありがとうございます」

 柳田は小野と握手をした。柳田の手は手汗が感じられた。小野はしばらく柳田と話していようかと思ったが、柳田は仕事があるようで、その場を後にした。

「内緒にしておきますよ」

 去り際に柳田はそう言っていた。そして小野は岸本としばらく体に鞭を入れなければならなくなると思った。

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