8 今は亡き友のために
レイ視点
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リュウ視点
まさか兄上がそこまで愚かだとは思わなかった。
妻と我が子を手にかけるなんてどうかしているとしか思えない。
フェアリスと私は同じ年の生まれと言うこともあって幼馴染として育った。
侯爵家の長女として生まれたフェアリスは、父親が王族派の主要メンバーということもあり、幼い頃から城によく出入りしていたのだ。
彼女は6歳年上の兄上のことを昔から慕っていて、私は二人の恋をずっと見守ってきた。
二人の結婚を心から祝福していたのに・・・。
兄上はセシリア伯爵令嬢と出会ってから変わってしまった。
セシリア嬢を頻繁に城に呼ぶようになり、フェアリスを遠ざけるようになった。
フェアリスが妊娠してからも、兄上は彼女を気遣うことはしなかった。
子供が生まれたらお心を入れ替えるだろう、そう思っていたが・・・。
フェアリスは出産で命を落とし、赤子も亡くなってしまった。
それから数日後、私が屋敷で伏せっていると、ロアンネが王妃殺害の容疑者だという御触れが出された。
私はこの時に大きな違和感を感じた。
フェアリスの従姉妹であるロアンネとも私は親交が深かったからだ。
あんなに優しい彼女がフェアリスに危害を加えるはずがない。
これには何か裏がある、そう感じた。
だが無実を裏付ける証拠もなく、彼女はそれから行方がわからなくなってしまった。
それがまさか、こうしてネイルデンで18年ぶりに再会するとは・・・。
私は10年前に王位継承権を辞退して公爵となり、ネイルデンに屋敷を構えていた。
この偶然の再会は、神が私に与えてくれた機会なのかもしれない。
フェアリスを守れなかった私に、罪を償う機会を与えてくださったのだ。
もう兄上には何ひとつ奪わせはしない。
フェアリスの子は私が守ってみせる・・・。
俺は急遽ヒューリー公爵に呼び出されて屋敷を訪れた。
公爵は政界に関与はしないが、ネイルデンでは事実上一番の権力者で、裏社会を仕切る銀の龍窟としては懇意にしておきたい相手だった。
たまにこうして酒の誘いを受けることはあるが、今日の目的はいつもと違うようだった。
公爵はワイングラスを回しながら俺を見据えた。
「君にやってほしいことがある」
「・・・なんでしょう?」
「屋敷を用意してほしい」
どういうことだ?
「わかりました・・・。場所はどちらに?」
「近過ぎず、離れ過ぎず、なるべく人目のつかない場所がいいだろう」
となると、東地区の山の麓にある別荘地がいいかもしれないな・・・。
「手配します。いつ頃から使われますか?」
「すぐにでも」
「わかりました」
屋敷を出た俺は、すぐに首元のタイを緩めた。
ヒューリー公爵が俺に頼み事とはな・・・。
まさか隠しておきたい愛人でもいるのか?
いや・・・公爵はまだ未婚だったか・・・。
彼の私生活に興味はないが、これから少しは面白くなりそうだ。