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7 懐かしき人



きっとアニスが心配しているわね・・・。

私は伯爵様の屋敷を訪れた日から使用人の部屋に軟禁されていた。

雨戸は閉ざされ日の光が入らず、あれから何日経ったのかも定かではなかった。

たまに使用人の女性が来るけれど、私が何を聞いても口を閉ざしたままで。

ただトイレに連れて行ってくれたり、湯あみをさせてくれたりした。

伯爵様が何度か食事を持って部屋を訪れたけれど、私が拒絶すると無理強いをすることはなかった。

私の心が折れるまで待つつもりなのかしら?

忍耐強くてしつこいお方だから、私は一生ここから出られないかもしれないわ・・・。

そんな不安が頭をよぎった時、バタバタと誰かが廊下を走ってくる音がした。

何事かしら??

私が部屋の隅で固まっていると、部屋の扉がバンッと蹴破られた。


「いました!」

「こちらです!!」


部屋に入って来た数人の兵士が、廊下に向かって声を張り上げた。

すると、コツコツという高い靴音が聞こえて・・・。

私が昔からよく知る人物が部屋の中に入って来た。

彼は私を見るなり驚いた顔をして。


「やはり君だったか」


と微笑んだ。

艶のあるブロンドの髪にガラス玉のように透き通った青い瞳。

彼は18年経った今でも眩しいほどに輝いていた。


「レイ様・・・どうしてここへ?」

「話は後にしよう。とりあえず私の屋敷に来てくれ」


レイ様は私の腕を掴むと、屋敷の外へと連れ出した。

すると、額に汗をかいたロイデン伯爵がレイ様の馬車の前にひれ伏していた。


「ヒューリー公爵様!どういうことでしょうか?その女とはお知り合いですか??」

「あぁ。彼女は私の古い友人だ」

「えぇ!?」

「君が彼女に何をしたのかはすぐに明らかになるだろう」

「そ、そんな・・・私はただ、その女に金を貸しておりまして・・・」

「そうか・・・。ならその金は私が君に支払おう。それでいいな?」

「は、はい・・・」


ロイデン伯爵は悔しそうに口をつぐんだ。

レイ様は先に私を馬車に乗せると、向かいの席に座って馬車を走らせた。

王都に住まわれているはずのレイ様がなぜこんなところに・・・。

ネイルデンにお住まいを移されたのかしら?


「ロアンネ、久しぶりだな」

「は、はい」

「君は18年前とあまり変わらないな」

「それは、あまりにも無理があるかと」

「ははっ。そうか」


彼とこんな形で再会するだなんて・・・。

もう二度とお会いできないと思っていたのに。


レイ様のお屋敷は、ロイデン伯爵の屋敷からそれほど遠くはなかった。

馬車から降りた私は、レイ様の従者に連れられて応接室へと通された。

少しすると、上着を脱いで軽装になったレイ様が入って来た。


「座ってくれ」

「はい」


ソファに座ると、侍女が紅茶とお茶菓子をテーブルに用意してくれた。

いい香りだわ・・・。

紅茶なんていただくのは何年ぶりかしら・・・。

今の私には高級品だものね。

侍女が部屋から下がると、レイ様が真剣な眼差しで私を見た。


「君がいなくなってからずいぶんと探した」

「すみません・・・」

「フェアリスが亡くなってすぐに君は行方をくらました。君に王妃殺害の容疑がかけられているのは知っているか?」

「はい・・・」


私は18年前まで王妃であるフェアリス様の侍女をしていた。


「でも私は君が犯人だとは思っていない。あの時何があったのか教えてくれないか?」

「それは・・・」


レイ様に真実を話そうとすると手が震えだした。

彼をこのようなことに巻き込んでもいいものかと怖かった。


「大丈夫だ話してくれ。誰にも口外はしない」

「レイ様・・・」


王妃様は出産した際の大量出血が原因で、数日後に亡くなられた。

でも、王妃様は出産のだいぶ前から体調に異変を感じていた。

何者かに毒物を盛られていると気付いたのは、出産を一月後に控えた頃だった。

数日後、王妃様の薬に毒を混ぜていた侍女を捕らえて尋問すると、彼女は命惜しさにすべてを自白した。

彼女に毒を盛るように指示した人の名も・・・。


「それは誰なんだ・・・?」


この名を口に出したら取り返しがつかないかもしれない。

だってレイ様はきっとその方を許すことはないだろうから。


「教えてくれ」


でも彼にも真実を知る権利があるのではないかと思った。

フェアリス様を誰よりも大切に思っていた方だから。


「それは・・・陛下です・・・」


レイ様の青い瞳が揺れた。


「ロアンネ・・・君は何を言っているんだ?」

「陛下と・・・現在の王妃様が仕組まれたことでございます」


現在の王妃であるセシリア様を愛してしまった陛下は、セシリア様を王妃に据えるために、フェアリス様とお腹の子を亡き者にしようとした。

フェアリス様は出産後、ご自分が助からないことを悟ると赤子を私に託した。

この子を連れて逃げてほしいと言って。


「では・・・その赤子は・・・」

「今、私と一緒に暮らしております」


王室は、赤子も王妃様と共に亡くなったと報じていたけれど・・・。


「ではやはりあの子は・・・」

「あの子?」

「昨日、フェアリスにそっくりな少年に会ったんだ・・・」

「それはきっとアニスです!あの子はどこですか?!」

「安心してくれ。昨夜家に届けた」

「え?」


レイ様は昨夜の出来事を私に話してくださった。


「そうでしたか・・・。アニスを助けていただきありがとうございました」

「馬車でたまたま通りかかってよかった。でもそうか・・・やはりフェアリスの子だったんだな」


確かにアニスはフェアリス様にそっくりだものね。

私もフェアリス様とは従姉妹ということもあって顔立ちと瞳の色は似ているけれど。


「君はそれからずっとネイルデンに身を隠していたのか?」

「はい。ここは王都からだいぶ離れていますし、人混みに紛れられますので」


でも顔見知りの貴族に会う可能性はゼロではなかったから、なるべく貴族社会とは離れた暮らしをしようと決めて、西地区に住むことにしたのよね。


「18年も隠れて暮らすのは大変だっただろう」

「はい。でもあっという間でした」


アニスと一緒に暮らす日々は楽しくて、苦に感じたことはなかった。

お金には困っていたけれど・・・。


「あの、ロイデン伯爵様への借金の件ですが、お金は自分たちでなんとか致しますので、レイ様に立て替えていただく必要はございません」

「何を言ってるんだ?君とは古くからの友人じゃないか。こんな時に助けにならなくてどうするんだ?」


レイ様が罪人である私と関わるのは良くないわ・・・。


「いえ、ご心配は無用です。私たちのことはどうかお忘れください」

「ロアンネ・・・」

「アニスが待っていますので、これで失礼いたします」


私が席を立つと、レイ様は諦めたように息を吐いた。


「そうだな。では馬車で送らせよう」

「いえ、大丈夫です。歩いて帰りますから」

「ははっ。同じことを言うんだな」


何度もお断りしたのに、レイ様は私のために馬車を出してくださった。

私は馬車に揺られながら、レイ様に真実を話してしまったことを後悔していた。

なぜならレイ様は、陛下の実の弟だから・・・。



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