24 決着の日の夜
誘拐事件から一週間後、王都に衝撃が走った。
セシリア王妃が公爵令嬢誘拐教唆の罪で告発されたからだ。
告発者はまさかのレイさんで・・・。
レイさんは証人として、今回私を誘拐した男3人と、王妃付きの侍女数人を召喚した。
当初王妃様は関与を否定していたけれど、証言と証拠が揃ったことで一ヶ月後には有罪判決が言い渡された。
そしてそれから3日後、貴族院の全会一致で王妃様の廃妃が決定された。
「レイさん、おかえりなさい」
王妃様の件で忙しくしていたレイさんが久しぶりに屋敷に来てくれた。
「なかなか来れなくてすまなかったね。ようやく片付いたんだ」
「お疲れ様でした」
お母さんがレイさんの上着を預かって頭を下げた。
二人は結婚してからもこうやってよそよそしい時がある。
まるでご主人様と侍女のように。
「今夜は久しぶりに三人で食事をしよう」
「はい」
ディナーが始まると、王妃様との決着がついたお祝いにとお母さんが赤ワインを開けた。
お酒を飲んだレイさんはいつになく表情が柔らかかった。
和やかに食事を終えて後片付けを済ませ、私が部屋に戻ろうとすると、お母さんが三人で話をしましょうと言って紅茶を淹れてくれた。
広間から応接室に移ると、お母さんがソワソワした様子でソファに座った。
「アニスも座ってちょうだい」
「どうしたの?」
「大事な話があるの」
「大事な話?」
レイさんがお母さんの隣に座ったので、私は向かいのソファに腰をかけた。
「実はねアニス・・・」
「うん」
「実は・・・」
お母さんが青ざめた顔をして押し黙っていると、レイさんがお母さんの手を握った。
「私から言おう」
レイさんは何の話か知ってるんだ?
「アニス・・・驚かないできてほしいんだが・・・」
「はい」
「実はアニスは、前王妃フェアリスの娘なんだ」
「・・・え?」
王妃様の娘?
それって・・・。
「私はお母さんの子じゃないってこと?」
「アニス・・・」
うそ・・・。
私とお母さんはこんなに似てるのに、赤の他人だったの??
「ロアンネはフェアリスの従姉妹でね。フェアリスが王妃の座についてからは王妃付きの侍女をしていたんだ。そしてアニスが生まれた時、アニスの命が狙われていることを知ったロアンネが、赤子の君を連れて城を出たんだ」
お母さんが私を連れて逃げてくれたってこと・・・?
「それからロアンネはネイルデンで君を育てた」
それを聞いて、これまで解けなかったパズルのピースがピッタリとはまったような感覚がした。
お母さんは口調も所作も貴族のように気品があったし、貴族の人が通りかかると何故かいつも顔を伏せていた。
レイさんがお母さんをロアンネと呼ぶのも、幼い頃のあだ名かと思ってたけれど、きっと本当の名前なんだわ・・・。
「アニス・・・今まで隠していてごめんなさい。本当は一生あなたに言うつもりはなかったの・・・。あなたは誰がなんと言おうと私の娘なんだから・・・」
わかってるよ・・・。
私のことを娘だと思ってくれてるって。
でもこれだけは言っておかないと。
「お母さんありがとう。私を育ててくれて」
そう言って笑うと、お母さんの瞳から涙が溢れた。
「ありがとうだなんて言わなくていいのよ・・・。家族なんだから、一緒に暮らすのが当たり前でしょう?」
「そっか・・・そうだよね」
「これからも私たちは本当の家族だよ」
「レイさん・・・」
でも、レイさんとお母さんはもしかしたら・・・。
「二人は私のために結婚したの?」
私の問いかけに、レイさんの青い瞳が揺れた。
「初めはそうだった・・・。アニスを守るために、私とロアンネで話し合って結婚することを決めたんだ。でも今はそれだけじゃない。二人のことを誰よりも大切に想っているのは本当だよ」
それを聞いてホッとした。
私のためだけに二人が一緒にいるだなんて嫌だもの。
それからレイさんは、前王妃が亡くなった真相を教えてくれた。
お母さんが陛下とセシリア王妃に殺されていただなんてショックだったけど、遠い昔の話のようであまり実感がわかなかった。
それでレイさんは、私を本来あるべき場所に戻すために尽力してくれていたそうだ。
「アニス、もう少し待っていてくれ。もうすぐ君は王女に戻れるから」
「え?」
「実は今日、兄上が私に譲位することを決めたんだ」
「え!?」
私とお母さんは驚いて顔を見合わせた。
「じゃあ、レイさんが国王になるの??」
「あぁ。来月には即位式が行われるだろう」
「お、おめでとう・・・」
「おめでとうございます」
じゃあお母さんが王妃で、私が王女になるってこと??
私が目を瞬いていると、レイさんがニコッと微笑んだ。
「急な話ですまないね。これから忙しくなると思うが、よろしく頼むよ」
次回、最終話です☺️




