20 大人のデート
乗馬大会から数日後、急にセト王子が屋敷を訪ねてきた。
「セト王子!」
「急に来てすまない。いま暇か?」
「暇ですけど・・・」
「これからちょっと出ないか?」
「え?今からですか?」
もうすぐ日が落ちる時間だけど・・・。
「王都はこれからが楽しいんだ」
「そうなんですか??」
どうしよう。
せっかく来てくれたのに断るのも失礼よね。
「わかりました。ちょっとだけお待ちいただけますか?すぐに着替えてきますから。応接室で待っててください!」
私は急いで2階に上がって外出用のドレスに着替えた。
来るなら来るって言ってよ!
こっちにだって準備ってものがあるんだから!
支度を済ませて1階に下りると、杖をついたセト王子が玄関ホールで待っていた。
「お待たせしました!」
「行くか」
「はい」
私はお母さんに事情を話して屋敷を出た。
あ、あれがセト王子の馬車ね。
シックなダークブラウンの馬車に乗り込むと、内装がすべてボルドーで統一されていた。
大人っぽくて素敵な馬車ね。
私が椅子に座ると、セト王子が可愛い小箱を手渡してきた。
「これは何ですか?」
「ちょっとしたお菓子だ。到着するまでつまんでくれ」
こんなことをされたのが初めてだから、どういう反応をすればいいのかわからなかった。
「あ、ありがとうございます」
箱を開けてみると、飴玉やクッキー、銀紙に包まれたチョコなどが入っていた。
なんて可愛いの!
セト王子は乙女心をわかってるわね!
お菓子を堪能しながらしばらく窓の外を眺めていると、大きな門をくぐったところで馬車が停車した。
目的地に着いたみたいね。
馬車を降りると、お城と見間違えるくらい立派で大きな建物が建っていた。
中に入ると、奥には大きな舞台があって、舞台を囲むようにソファとテーブルが並んでいた。
「ここでは特別なショーが見れるんだ」
「え?もしかして舞台ですか??私一度見てみたかったんです!」
「そうか。なら連れて来てよかった」
やった〜!
どんな舞台かな?
有名な恋物語だったらいいな。
「ちょ、セト王子??これは一体なんですか??」
「何が?」
「これ、舞台じゃないじゃないですか!」
「これもれっきとした舞台だろう?」
「お、女の人が裸になって腰を振ってますけど??」
「ははは!そういう店だからなここは!」
「き、聞いてません!わ、わたし帰ります!」
ソファから立ち上がろうとすると、セト王子が私の腕を掴んだ。
「ちょっと待て。最後まで見ないと失礼だろう?ほら!舞台女優がこっちに来たぞ」
「え??」
裸の女性が舞台から降りてきて、私たちのテーブルの上に上がった。
きゃあ〜〜〜〜!
女性は恥ずかしげもなくテーブルの上でごろごろと転がっている。
「ほら、チップを渡さないとテーブルから降りないぞ」
「え?チップ??」
セト王子が1万レギンを胸ポケットから出して、女性が腰に巻いていた紐に挟み込んだ。
「ほら、アニスもやってみろ」
「えぇ??」
私は渡された1万レギンを目を細めながら女性の腰紐に挟んだ。
すると、女性は投げキッスをして舞台へと戻って行った。
「どうだ?スリルがあっただろう?」
これをスリルと呼ぶのかわからないけど、確かに心臓がバクバクしてるわ!
そんな私をセト王子は面白がるように見つめて。
「あと1時間はあるから楽しもう」
と微笑んだ。
「えっ?」
「きょ、今日はありがとうございました」
私は屋敷まで送ってくれたセト王子に頭を下げた。
「少しは楽しめたか?」
「は、はい。いい経験になりました」
「それはよかった。また誘ってもいいか?」
「も、もう少し刺激が少ないところでしたら」
「ははっ!わかった。今度はもっと軽めのところを考えておく」
「はい・・・」
「じゃあまた」
「おやすみなさい」
はぁ・・・やっと解放されたわ。
王都にあんな所があったなんて・・・。
セト王子の馬車が遠ざかるのを見送って門をくぐろうとすると、通行人の男性が話しかけてきた。
「ここは公爵様のお屋敷ですか?」
「え?あ、はい。そうですが」
私がそう言った瞬間、男はニヤリと笑って。
え?
持っていた大きな袋を私に被せた。
「きゃ」
叫ぼうとすると、袋の外側から口を押さえられて。
「ん〜〜!!」
誰かっ!!
助けてお母さん!!!
抵抗したけど男の人に敵うはずもなく・・・。
私はそのまま連れ去られてしまった。




