19 乗馬大会
「ほら、あれが公爵令嬢のアニス様よ」
「再婚相手の連れ子だって聞いたわよ」
「すごいシンデレラストーリーね」
先程からご令嬢たちがあちらこちらで私の噂話をしていた。
私は今日、レイさんとお母さんと城で開催される乗馬大会の観覧に来ていた。
二人が隣の席のご夫婦と話していたので、私はこっそり観覧席を抜け出して、立食パーティーの会場に来たのだ。
ここにあるスイーツって全部食べてもいいんだよね?!
私がお皿を持ってどれから食べようかな、と悩んでると。
「社交界はアニスの話題で持ちきりだな」
杖をついたセト王子が話しかけてきた。
「セト王子!」
三ヶ月前にディナーをご一緒してから一度もお会いしてなかったわ。
シルバーのスーツがとてもお似合いね。
「どうだ?乗馬大会は楽しいか?」
馬が走っているのを見てるだけなのに楽しいわけないじゃない。
「楽しくはないですね」
「ははっ!はっきり言うんだな!なら、金をかけてみたらどうだ?」
「お金を?」
「どの馬が1着になるかを予想して金を賭けるんだ」
「そんな遊びがあるんですか?」
「あぁ。こっちだ」
セト王子に付いて行くと、タバコを咥えた貴族の男性たちが紙とペンを持って、これから出走する馬を真剣に眺めていた。
「ここはパドックだ。ここで馬の状態を確認して、1着になりそうな馬を予想する」
「え?見ただけでわかるんですか?」
「艶とか筋肉の付き方で馬の仕上がりがわかるだろ?」
「全然同じにしか見えませんけど・・・」
「わからないなら馬の名前とか色で適当に決めてもいい」
セト王子に紙とペンを渡されたので、私は白い馬の番号を書いた。
「いくら賭けるんだ?」
「あ・・・」
そういえば私お金を持ってなかったわ。
「持ってないか・・・。なら私が貸してやる」
と言ってセト王子が1万レギンを差し出した。
「こんな大金を??」
「ははっ。これぐらい賭けなきゃつまらないだろ」
窓口で馬券を買った私たちは、観覧席の一番前まで行ってレースが始まるのを待った。
「ほら、すぐ始まるぞ」
ラッパが鳴り響いて、馬たちがゲートへと入って行った。
パーーーンッとピストルが鳴ったと同時にゲートが開き、馬が走り出した。
私が賭けたのはあの白い馬ね!
今は何着かしら?
先程までとは違ってドキドキとしながらレースを見守った。
「最終コーナーを回ったぞ!」
ゴールに向かってラストスパートを掛ける騎手たち。
来た!
白い馬が先頭だわ!
「行け!」
セト王子が松葉杖をグッと握り締めた。
3頭が並んでゴールをして、目視ではどの馬が1着なのかわからなかった。
その中には私が選んだ馬もいて。
結果の発表を今か今かと待ち侘びた。
アナウンスで1着の馬の名前と番号が呼ばれたけど、私は覚えてなくて。
「アニス!8番だ!お前の選んだ馬が1着だ!」
「え??ほんと??」
「あぁ!すごいぞ!大穴だ!!」
大穴というのが何なのかわからなかったけど、当たったってことよね??
「やった〜!!」
私が思わず抱きつくと、セト王子がよろけてしまった。
「あ、ごめんなさい!大丈夫??」
「だ、大丈夫だ」
二人で馬券を換金しに行くと、1万レギンがなんと100万レギンになっていた。
それをセト王子が私にくれようとしたけど。
「い、いりません!私お金を使うことなんてないですから!」
「は?どこかに出かけたりしないのか?」
「食材の買い出しに出かけることはありますけど」
「それ本気で言ってるのか?王都に住んでおいてどこにも行かないだと?」
「はい」
「アニス、お前人生を損してるぞ?」
「そうなんですか?」
「今度遊びに連れてってやる。この金で豪遊しよう」
「ふふ。そうですか?じゃあ楽しみしてます」
ディナーをした時から思ってたけど、セト王子は王族とは思えないほど気さくで話しやすい人ね。




