18 怒り
※一部残酷な表現が含まれています。苦手な方はご遠慮ください。
「レイ、どういうことだ?あれは一体誰なんだ!」
「レイ様、あの娘とはどこで知り合ったんですか?」
二人が焦っている姿を見て私は心の中で笑っていた。
死んだと思っていたフェアリスにそっくりな子が目の前に現れたんだ。
冷静ではいられないだろう。
「妻と娘にはネイルデンで出会いました。私も最初アニスを見た時は驚きました。フェアリスにあまりにも似ていたので・・・」
その名を聞いたセシリアがグッと唇を噛み締めた。
「まさか、あの娘が彼女に似ているからこの結婚をお決めになったのですか??」
「レイ、そうなのか??」
「すみませんが、王妃様は席を外していただけませんか?兄上と二人で話したいので」
私が冷めた目で見下ろすと、彼女は顔を強張らせた。
「で、でも、このような状態の陛下を置いていくことは・・・」
「セシリア、大丈夫だ。君は席を外してくれ」
「あなた・・・」
セシリアは後ろ髪を引かれながらも執務室から出て行った。
「レイ・・・お前はまだ18年前のことを」
「えぇ。この18年間、私は一度もフェアリスのことを忘れたことはありません」
「ははっ!そうだったのか。それで?あんな娘を連れて来てお前は一体何がしたいんだ?」
「正しい道に戻したいと思っています」
「正しい道だと?」
「兄上・・・あの子はフェアリスの実の子です」
「何を馬鹿なことを・・・」
「フェアリスは出産の時に亡くなり、赤子も亡くなったと言われていましたが、赤子は生きていました。それを兄上もご存じだったのではありませんか?」
「何を言って・・・」
「当時フェアリス付きの侍女だったロアンネが赤子と共に消えました。それを知った兄上はロアンネに王妃殺害の容疑をかけて捕えようとしていましたね?」
「そんなでたらめをどこで・・・」
「私の妻がその時のフェアリスの侍女、ロアンネなんです」
「はは・・・まさか・・・」
「彼女はフェアリスの子を一人で18年間育てていました。そしてあの時の真実を私に教えてくれたのです。兄上とセシリア嬢がフェアリスを殺害しようとしたことを・・・」
それを聞いた兄上は弁解することを諦めたのか、クスクスと笑い出した。
「何がおかしいんです?」
「ははは・・・まさかお前がここまでするとは思わなかった」
「なんでもします。フェアリスの無念を晴らすためなら」
「そこまで彼女を愛していたのか?」
「・・・・」
「お前は昔からそうだったな。いつもフェアリスのことを見ていた」
「兄上も昔はそうだったはずです・・・。ですがセシリア嬢と出会ってから変わってしまった」
「違うな・・・。私は何も変わっていない。私はフェアリスのことを可愛い妹のように思っていた。女性として愛していたわけではなかった」
「妻にしておきながら今更何を・・・」
握りしめる私の拳は震えていた。
「だが私はセシリアと出会って、女を愛するということがどういうことかわかったんだ・・・。どうしてもセシリアを手に入れたい。そばに置きたいと思ってしまったんだ」
「それで二人でフェアリスを殺そうと?」
「違う・・・殺す気などなかった。流産させる薬だと聞いていたんだ。母体には何の影響もないと医師は言っていた」
なんと恐ろしいことをおっしゃるのか・・・。
これが本当に兄上の口から出てくる言葉なのか?
「フェアリスが万が一にでも王子を産んでしまったらと思うと怖かった。第一王子を産むことを望んでいたセシリアが私の元を去ってしまうのではないかと・・・」
「はっ!自分で身ごもらせておきながら、よくもそんなふざけたことを!だったらなぜフェアリスとご結婚なさったのですか!妹だとしか思えないならなぜ!!」
こんなことならフェアリスを諦めるべきではなかった。
なにがなんでもあの時!
「私はフェアリスと結婚する前にお前に言ったな?本当に私が結婚してもいいのかと。覚えているか?」
覚えているに決まっている。
あの時私はフェアリスへの想いを封印すると決めたのだから。
「お前はあの時フェアリスを諦めるべきではなかった。フェアリスを幸せに出来るのはお前しかいなかったのだから」
それを聞いた瞬間私は兄上に殴っていた。
何発殴ったのかもはっきりと覚えていない。
ただ、気がついた時にはもう兄上は床に転がっていた。
「ははは!やっと自分の気持ちをさらけ出したか!この18年間大人しかったお前が薄気味悪かったんだ!あははは!」
殴られて頭がおかしくなったか?
「今日はもう食事どころではないので失礼します」
大広間に戻ると、私はすぐにロアンネとアニスを連れて城を出た。
これで終わりではありませんよ兄上・・・。
必ず二人には罪を償ってもらいます。
次の日、せめてもの罪滅ぼしか、兄上はロアンネの指名手配を取り下げていた。




