17 招待
レイさんは私とお母さんにマナー講師をつけてくれた。
私たちが公爵夫人や公爵令嬢として、いずれパーティーや公務に出ることを考えてのことだった。
私はレイさんと公爵家の恥にならないようにと一般教養とマナーの習得に励んだ。
目標に向かって忙しくしているとリュウさんのことを思い出さなくて済んだし、素敵なレディーになるためだと思うとワクワクもした。
そうやってあっという間に三ヶ月が過ぎ、私がマナーの先生にお墨付きをもらった頃、レイさんがお城でのディナーに招待してくれた。
はぁ・・・緊張してきた。
私たちはいま馬車に揺られて城へと向かっていた。
目の前には綺麗にドレスアップしたお母さんとタキシードを着たレイさんが座っていて、まるで新婚さんを見ているみたい。
もちろん私も光沢のある黄色いドレスを着て、初めて薄く化粧もしてもらっていた。
陛下と王妃様にお会いするの、楽しみだな・・・。
城に到着すると、騎士たちが馬車に駆け寄って来た。
「公爵様、お帰りなさいませ」
「あぁ。馬車を頼む」
「はい」
メインエントランスから中に入ると、目の前に大きな長い階段があって、天井は天にも届きそうなほど高かった。
「アニス、口が開いてるわよ」
「あ、ごめんなさい」
レイさんに続いて長い廊下を歩いていると、すれ違う騎士や侍女たちが頭を下げてきた。
私がお辞儀を返そうとすると、それはしなくていいとレイさんに止められた。
しばらく歩いていると、大きな扉の前でレイさんが立ち止まった。
「二人とも、準備はいいかい?」
「はい」
「えぇ」
中に入ると、陛下と王妃様が長いテーブルの端に向かい合って座っていた。
その間には車椅子に座った赤髪の男性と、こちらも赤髪でカールのかかった女性が座っていた。
あれはきっとセシリア王妃様の王子と王女ね。
四人は私たちに気が付くと席を立った。
「ようこそ。君たちがレイの愛する妻と娘だね」
陛下がこちらに歩いて来たので、私とお母さんは頭を下げた。
「今夜はお招きいただきましてありがとうございます」
そう言って私が顔を上げた時だった。
私を見た陛下が急に後ずさったのだ。
どうしたんだろう??
私何か間違ったかな??
不安になってレイさんを見ると、私に優しく微笑みかけてくれた。
「兄上、こちらが私の愛する娘、アニスです」
レイさんが私を紹介すると、陛下は青ざめた顔で口を開いた。
「アニス?」
「はい」
「陛下、初めまして。アニスと申します」
私が微笑むと、陛下は立ちくらみがしたのか額押さえてふらついた。
「あなた!一体どうしたんですか??」
王妃様が慌てて陛下の元に駆け寄ってきた。
そして陛下の肩を支えた王妃様も、私の顔を見るなり驚いて。
「あ、あなた・・・」
「え?」
二人は私のことを知ってるの??
「アニスすまない。先にお母さんと席についていなさい」
私はお母さんに連れられてテーブルへと向かった。
「兄上、体調が優れないようですね。一旦席を外しましょう」
レイさんと陛下と王妃様は大広間を出ていってしまった。
陛下も王妃様も私の顔を見てすごく驚かれてたわ・・・。
私が知っている人に似てたのかな??
「ほらアニス、ご挨拶しましょう」
あ、そうだわ。
「セト王子、ルナ王女、初めまして。妻のロアンネと申します」
「アニスと申します」
「あ、あぁ。セトだ。よろしく」
「ルナですわ・・・」
二人も何が起きたのかと困惑している様子だった。
とりあえず私たちが向かいの席に座ると、セト王子が困ったように頭を掻いた。
「仕方がないので私たちだけで食事を始めましょう」
「そうね。いつ戻って来るかもわからないし」
とルナ王女が手を広げた。
初対面の私たちだけで食べるの?と不安になったけど、ここで帰るわけにもいかないし。
王子と王女だけの方が話しやすいかもしれないわよね、と私は気持ちを切り替えてディナーを楽しむことにした。




