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少年のフリをしていた私がいつの間にかマフィアのボスに愛されていたお話  作者: ぽーりー


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12 王妃の頼み



「公爵様!城より緊急の書簡が届きました!」


従者が慌てた様子で執務室に入って来た。


「見せてくれ」


私は赤い書簡を受け取ると、机に置いてあったペーパーナイフで封を切った。


「第一王子が・・・?」


書簡には、先日城で開かれた乗馬大会の試合中に第一王子が落馬し、重傷を負ったと書かれていた。

第一王子は昔から乗馬が得意で、大会では毎回優勝するほどの実力者だと聞いていたが、まさかこんなことになるとは・・・。

これでは兄上も気が気じゃないだろう。

私は特に驚くことも同情することもなかった。

ただ私の血のつながりのある王子が重傷ともなると、一度くらいは見舞いに行かないと示しがつかないだろう。

面倒なことになったな、と私は書簡を暖炉の火にくべた。







4日後、登城した私はすぐに第一王子セトの私室へと向かった。

侍女に促されて中に入ると、ヘッドボードに背中を預けて読書をするセトがいた。

前髪が邪魔なのか、彼はセシリアと同じ赤髪を後ろでひとつにまとめていた。


「伯父上、ご無沙汰しております」

「あぁ。10年ぶりだな」

「お元気そうで何よりです」

「お前はどうだ?」

「両足が折れてしまいまして・・・完治は難しいと言われています」

「そうか・・・」

「調子に乗りすぎてしまいました。ご令嬢たちの声援に応えようとしたらこのザマです」


そう言ってセトは笑った。

私に気を許してるのか、幼い頃のようにくだけた態度で接してくるな・・・。

それが可愛くもあったが、セシリアの息子だと思うとこれ以上彼と親しくする気にはなれなかった。


「父上にはお会いになりましたか?」

「いや、これからだ」

「父上も久しぶりに伯父上にお会いするのを楽しみにしておりました」

「そうか・・・」

「そろそろ和解していただけませんか?伯父上にはまた城に戻って来ていただきたいのです」


そう言われても、王位継承権を持たない王族は城に住むべきではない。


「無理な話だな・・・。私はネイルデンが気に入ってるんだ。セトもいつか遊びに来なさい」

「ネイルデンですか・・・。いいですね、考えておきます」




セトの部屋を出た私は、兄上の執務室へと向かった。

ここは10年前と何ひとつ変わらないな・・・。

この廊下を何度往復したことだろう。

若かりし頃は、兄上と政治や世論について朝まで語り明かした。

あの頃は誰もが羨むほど仲の良い兄弟だったのにな。


ノックをして執務室に入ると、白髪混じりの少しやつれた姿の兄上がいた。

お互い歳には抗えないな・・・。


「レイ、遠路はるばる悪かったな・・・。セトにはもう会ったのか?」

「はい。先程挨拶を済ませました」

「そうか。本人はケロッとしていただろう」

「思い悩んでも現状は変わりませんから」

「そうだな。この先のことを考えないと・・・」


王位継承権一位のセトの回復が難しいとなれば、これからは第二王妃の王子であるロイを後継者として育てなくてはならない。

しかしそれをセシリア王妃が許すだろうか。

セトが来年18歳になれば王太子任命は確実だろうと言われていたのに。


「セシリアは私室で塞ぎ込んでしまっていてな。今回挨拶に来るのは難しいだろう」

「そうですか・・・」


顔を合わせなくて済みそうだな。


「ネイルデンでの暮らしはどうだ?何か困ったことがあればなんでも言ってくれ」

「いえ。何不自由なく暮らしております」


城を出てから10年、今では王都よりもネイルデンの方が故郷という感覚に近い。


「レイ・・・お前もそろそろ身を固めたらどうだ?」


またこの話か。


「何度も言っておりますが、私は結婚するつもりはありません」

「そう決めつけなくてもいいだろう。新たな出会いがあるかもしれないではないか」

「いえ。私は独り身が性に合っていますので・・・」


私はもう誰も愛することはないだろう。


「では私はこれで失礼します」

「泊まらないのか?」

「はい。今日王都を発ちます」

「そうか・・・。久しぶりに会えてよかった」

「はい。ではお元気でお過ごしください」


執務室を出ると、見覚えのある侍女が私を待っていた。

この者は確か王妃付きの・・・。


「レイ様、王妃様がお待ちです」


やはり。

塞ぎ込むような女性(ひと)ではないと思っていた。


「わかった」


王妃の私室を訪れると、派手な装いのセシリアがソファに座って待っていた。


「レイ様、お久しぶりでございます。いつ見ても麗しいですわね」

「ははっ。世辞はよしてくれ」

「まぁ!私は嘘はつきませんわ!どうぞ、お掛けください」


ソファに座ると、セシリアが侍女たちを部屋から出した。


「ご存知かと思いますが、今回セトが大変な目に遭いまして・・・」

「あぁ。先程セトに会ったが、思ったより元気そうだった」

「えぇ・・・。昔からあの子は物事を深く考えない子ですから。困ったものですわ」

「それぐらいでないとここではやっていけない」

「ふふ。そうですわね。でも、このままですとあの子の王太子の座が危ういのです」


本題に入ったか。


「それでご相談なのですが・・・。レイ様に王位継承権一位に戻っていただきたいのです」


セトが完全に回復するまで一位の座を守れということか。

ロイにその座が渡らないように。


「それは難しい相談だな。今更継承権を取り戻すのは不可能だ」

「わたくしが大臣や貴族たちに掛け合います。陛下もきっと了承してくださいますわ」


兄上と王族派は賛成するだろう。

問題は貴族派だ。


「ここ10年で貴族派の勢力は衰えました。レイ様はただ了承して頂くだけで結構です。後はすべてこちらがやりますので」


もう根回しをしているようだな。


「考えてみよう。返事は少し待ってくれないか?」

「かりこまりました。いいお返事をお待ちしておりますわ」


王位継承権に興味はなかったが、アニスのことを考えると悪くない提案だ。

私に権力が戻れば、あの子の本来の居場所を取り戻すことが出来るかもしれない。

紅茶に口をつける私の口角は自然と上がっていた。


それから20日後の貴族院会議で、私を王位継承権一位に戻すという議案があがり、賛成多数で可決された。



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