10 彼女の行方
アニス視点
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リュウ視点
別荘に住み始めてから二週間が過ぎた。
お母さんと私は屋敷の掃除や花壇の手入れ、壊れた備品の修理などをしながら過ごしていた。
買い物は週に一度、別荘地の公園で開かれるバザーに行って野菜や果物を買って来た。
お給料は一日に2万レギンも頂けて家賃もかからないから、二人でも十分に暮らしていけそうだ。
西地区にある家は家賃を払い続けて維持していくとお母さんが言っていた。
いずれはまたあの家に戻ることになるだろうからって。
レイさんはあれから一度だけここに来てくれて、ディナーをご一緒した。
すごくいいお肉を持って来てくれて、私は初めてステーキというものを食べた。
口の中で脂がジュワッと溶けて、ライスと一緒に食べるとなんとも言えない美味しさだった。
あんなものを知ったらいつもの生活に戻れなくなりそうで・・・。
これは今だけの特別なことなんだって自分に言い聞かせた。
ここでの生活はとても快適だったけれど、リュウさんに会えないことが唯一の気がかりだった。
お母さんが帰って来たことをリュウさんにも伝えたかったし。
レイさんにお願いして馬車で南地区に行かせてほしいけど、そうしたらお母さんに南地区に行ってたことがバレちゃうし。
はぁ・・・リュウさん今頃何してるのかな・・・。
アニスがいなくなった。
北地区の大通りを通っても、いつもの場所で仕事をしていなかった。
店にも確認してみたが、二週間ほど前から来なくなったという。
母親に次いでアニスまでいなくなるということは、ロイデン伯爵が絡んでいるのかもしれない。
母親が屋敷の一室に監禁されているところまでは突き止めていたが、屋敷からどうやって救出するかに悩んでいたところだった。
でもアニスも消えたとなれば、手段を選んでいる場合じゃない。
俺は部下たちを10名ほど引き連れて、ロイデン伯爵の屋敷に出向いた。
ベルを鳴らすと、使用人らしき男が門まで出て来た。
「な、なんの用でございましょう?」
「ここにリンネという女はいるか?」
「え・・・?それは・・・」
「答えられないのならいい。すぐに伯爵を呼んで来い」
「あ、あの、どちら様で?」
「銀の龍窟と言えば伝わるだろう」
「えぇ!?しょ、少々お待ちください!」
男は小走りで屋敷の中へと入って行った。
しばらく待っていると、中年太りの貴族らしき男が出て来た。
こいつがロイデン伯爵か。
黒スーツの俺たちを見た伯爵は、ビクビクしながら顔を上げた。
「う、うちの屋敷に何の用でしょう?」
「リンネという女がここにいるだろう?」
「え??リンネですか??」
「いないのか?」
「い、いえ、いたのですが・・・公爵様に連れて行かれまして・・・」
「公爵?」
「はい。ヒューリー公爵様です。あの女を古い友人だとおっしゃって」
何だと?
ヒューリー公爵とアニスの母親が友人?
「それで?女を連れて行ったのか?」
「はい。馬車に乗せて行かれました」
どういうことだ?
なぜ公爵が西地区に住んでいる女を知っている?
「そうか・・・。急に来てすまなかったな」
「い、いえ」
俺はすぐに馬車に乗り込んで公爵の屋敷へと向かった。
出て来た従者に取り次ぐように伝えたが、公爵は今不在だと言われた。
そして、どこへ行ったのかもわからないという。
従者に口止めをしているのか?
それとも本当に行き先を告げずにどこかへ行った・・・?
その時俺はふとあの別荘のことを思い出した。
まさか・・・。
公爵はアニスの母親のためにあの屋敷を用意させたのか?
確証はないが、俺の勘が正しければあの別荘にアニスもいるはずだ!
俺はすぐに馬車を東地区の別荘地へと向かわせた。
これまでは会いたいと思えば、アニスはいつもあの場所にいた。
黒く薄汚れた顔で靴磨きをしながら笑っていた。
アニスがいることを当たり前のように感じていたが、こうやって彼女を見失ってしまうと、言いようのない焦燥感が襲ってきた。
このままアニスと会えなくなってしまったらと思うと怖かった。
「もっと馬車を飛ばせ!」
別荘へのこの数時間の道のりが、これほど長く感じたのは初めてだった。




