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8.両親からの手紙

「グランツヴェルト侯爵家、エドワード・グランツヴェルトを、ここにアストラティア王国宰相に任命する」


国王陛下の厳かな声が、謁見の間に響き渡る。

エドワード兄様は、凛とした佇まいで頭を下げていた。

碧眼に決意の色を宿し、その表情はこれまで以上に頼もしい。


「誇らしいわね」

隣でリリアーナが小さく囁く。

彼女もまた、この式典に招かれていた。


「ええ」

私は誇らしい気持ちを抑えきれず、微笑む。


式典を見守るシリウス様の紫の瞳には、深い信頼の色が浮かんでいる。

幼なじみであり、親友である兄を、自らの右腕として選んだ決断。

それは、新しいアストラティアへの第一歩。


「エドワード」

シリウス様が、兄様に向かって一歩進み出る。

「これからの道のりは、決して平坦ではないだろう」


「はい、シリウス殿下」


「しかし」

シリウス様が、珍しく柔らかな笑みを浮かべる。

「君となら、きっと理想の国を作り上げていけると信じている」


「この信頼に、必ずや応えてみせます」


その時、エドワード兄様の視線が、私に向けられた。

そこには、深い愛情と誇りが込められている。


(兄様・・・)


幼い頃から私を守り続けてくれた優しい兄。

そして今、アストラティアの未来を共に築こうとしている、頼もしい宰相。


式典の後、兄様は私を呼び止めた。


「ティア」


「はい、兄様」


「父上と母上から、これを渡すように言われていてね」


そう言って差し出されたのは、一通の手紙と、小さな宝石箱。

開くと、中には美しい青いサファイアのネックレス。


「これは・・・」


「グランツヴェルト家の星のネックレス・・・」

エドワード兄様が静かに説明を始める。

「代々、家の娘が王家に嫁ぐ時に身につけてきた宝物だ」


サファイアは、まるで夜空を閉じ込めたかのような深い青。

中心には、小さな星型のダイヤモンドが埋め込まれている。





手紙を開くと、母の優雅な筆跡が目に入る。


『愛する娘へ


あなたの選択は、私たちの誇りです。

幼い頃から、あなたには特別な輝きがありました。

まるで、このネックレスの星のように、周りを照らす光を持っていた。


シリウス様との婚約を聞いた時、私たちは心から喜びました。

あなたの瞳が、かつてないほど輝いていたから。

本当の愛は、人を美しく輝かせるもの。

それを、あなたが教えてくれました。


このネックレスには、代々のグランツヴェルト家の想いが込められています。

そして今、新たにあなたとシリウス様への祝福を込めて。


どうか胸を張って、あなたの道を歩んでいってください。

私たちは、いつもあなたを誇りに思っています。


母より』


「母様・・・」

思わず、目頭が熱くなる。


「父上からも」

エドワード兄様が、もう一通の手紙を差し出す。


『セレスティアへ


お前の決断は、見事だった。

一人の人間として、そして侯爵家の令嬢として、最善の道を選んだ。


シリウス殿下は、素晴らしい方だ。

お前を心から愛し、そして国のことを真摯に考える方。

この上ない婿殿を得られたことを、心から喜んでいる。


このネックレスは、グランツヴェルト家の誇りの証。

星祭の夜、胸を張ってつけるがよい。

お前は、我が家の、そしてアストラティアの、輝く星となるのだから。


父より』


「父様も・・・」


エドワード兄様が、優しく私の肩に手を置く。

「父上も母上も、星祭を心待ちにしているよ」


「はい」

私は涙を拭いながら、ネックレスを胸に抱く。

「きっと、素敵な星祭にしてみせます」


その時、廊下から懐かしい旋律が聞こえてきた。

『星の導き』—シリウス様が作ってくれた、私たちの曲。


音楽に導かれるように、私は廊下を歩いていく。

エドワード兄様は、優しい微笑みを浮かべながら、そっと背中を押してくれた。


旋律は、月光の庭園から聞こえてくる。

そっと扉を開けた。





「まあ・・・」


庭園は、無数の青い光で彩られていた。

青い薔薇に小さな魔法の灯りが灯され、まるで星空のよう。

その中心で、シリウス様が私を待っていた。


「ティア」

シリウス様が手を差し伸べる。

「君を待っていたよ」


「シリウス様、この素敵な光は・・・」


「エドワードから聞いたんだ」

シリウス様が、私の手に持つネックレスに目を向ける。

「グランツヴェルト家の星のネックレスを、今日受け取ると」


「はい」

私は微笑んで頷く。

「母様と父様からの手紙と共に」


「見せてもらえるかい?」


ネックレスを手渡すと、シリウス様はそっとそれを掲げた。

青い魔法の灯りの中で、サファイアが神秘的に輝く。


「美しい」

シリウス様が囁く。

「君にぴったりだね」


そして、私の背後に回り、そっとネックレスを装着してくれる。

首筋に触れる指先が優しく、心臓が高鳴る。


「ティア」

シリウス様が、私の肩に手を置く。

「このネックレスには、不思議な力があるそうだね」


「え?」


「グランツヴェルト家に代々伝わる言い伝えによると」

シリウス様の声が、音楽と共に柔らかく響く。

「真実の愛を見つけた時、中心の星が最も美しく輝くのだとか」


その言葉に、私は思わずネックレスに目を落とした。

確かに、星型のダイヤモンドが、いつの間にか青く輝いている。


「シリウス様・・・」


「踊ってくれないか、ティア」

シリウス様が、改めて手を差し伸べる。

「この星空の下で」


音楽が高らかに響く中、私たちは静かにステップを踏み始めた。

青い光に包まれて、まるで星の中を舞っているよう。


「君は」

シリウス様が、私を抱きしめながら囁く。

「私の、そしてアストラティアの、永遠の星だよ」


ダンスの余韻が残る中、シリウス様が突然、私の手を引いて庭園の奥へと導いた。

そこには、小さな望遠鏡が設置されている。


「ほら、見てごらん」


覗き込むと、夜空に青く輝く星が見えた。

アストラティアの守護星。


「伝説では、星の女神がこの星に導かれて地上に降り立ち」

シリウス様の声が優しく続く。

「そして、青い薔薇の冠を作ったという」


「はい」

私は望遠鏡から顔を上げ、シリウス様を見つめる。

「そして、最愛の人と結ばれた、と」


「ティア」

シリウス様が、私の頬に触れる。

その紫の瞳には、深い決意が宿っている。


「星祭の夜、君は青い薔薇の冠をつけ、このネックレスを身につける」

その言葉に、私の心臓が高鳴る。


「そして、その後・・・」

シリウス様が、少し言いよどむ。

「星の見える丘で、君に大切な話がある」


「シリウス様?」


「それまでの間、私に付き合ってくれないか」

シリウス様が、不思議な笑みを浮かべる。

「毎晩、この望遠鏡で星を見るのを」


「星の女神が地上に降り立つまでの日々を、一緒に追体験したいんだ」


その言葉に、思わず笑みがこぼれる。

「シリウス様ったら、本当にロマンチストですね」


「君のためならね」

シリウス様も柔らかく笑う。

「さあ、今夜の星座の物語を聞かせてあげよう」


青い魔法の灯りに包まれながら、私たちは星空を見上げる。

首元では、グランツヴェルト家の星のネックレスが静かに輝いていた。


星祭まで、あと5日。

その日までの毎晩、シリウス様と星を見る約束。

そして、その先にある「大切な話」——。


(きっと、素敵な物語が待っているのね)


私は、シリウス様の腕の中で幸せな溜息をつく。

頭上では、アストラティアの守護星が、いつもより明るく輝いていた。

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