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魔法の正体と水

「アフィリアちゃん、深呼吸! 深呼吸! 吸って~。吐いて~」


 すぅはぁとマリエラ先生の声に合わせて息を吸う。しかし手から放たれるほのかな光が止む気配はない。


「どうすれば止まるんでしょうか……これ?」


 焦る私と先生をよそに、ぴかぴかと私の手は輝いている。


「もしかして……。 アフィリアちゃん、ちょっとこれに触ってみて」


 そう言って、一人私を置いて得心がいったような顔で先生が持ってきたのは、水の入ったコップ。


「水……ですか?」


「いいからいいから。そのピカピカのおててでタッチよ! アフィリアちゃん」


 机に置かれたそのコップに、今も魔力の燐光を放ち続ける手が近づき、触れた。

 その瞬間、私の手を包んでいた輝きはコップの中の水へと吸い込まれるようにして消えてゆく。よく見れば、今度はコップに入った水がほのかな輝きを放っている。


「これ……は?」


「簡単なことよ。アフィリアちゃん、あなたの魔法は相手に触れれば発動するということ」


 『お揃いね?』と先生は私に笑いかけてくる。


「お揃い……先生の治癒魔法も触れる必要があるということですか?」


「ええ。私も人の傷を癒すときは、患部の近くに触れる必要があるわ。貴方の魔法が私と同じ治癒だとは限らないけどね」


 パチンと両手を合わせ、先生は続ける。


「じゃあ、さっきの続きね。コレを使います」


 先生が指さす先には、机に置かれた一冊の本。古めかしい装丁で、高級そうなものであることは分かるが、それ以上は分からない。表紙にも名前は書かれておらず、得られる情報は、何か古そうな本であるということだけ。


「それは……?」


 さっき聞きそびれた質問をもう一度投げかける。


「これはねぇ、魔力を防ぐ障壁を発生させられるスグレモノの魔本だよ」


 魔本、一言でいえば本の形をした魔道具。動力のある魔道具と違い、魔本は自分で魔力を流し込む必要があるが、その用途は見た目に囚われず多岐にわたる。


「障壁……ここに障壁を張るのですか?」


「ええ、だってあなたの魔法がどう作用するか分からないもの。だから、危険物みたいな扱いで悪いのだけれどこの障壁の中で練習してもらいます……じゃあ、早速やっちゃいましょうか」


 そういって先生はパラパラと本のページをめくっていく。

 先ほどの私の手のような魔力の輝きが、今度は魔本から放たれる。


「えいっ!」


 気の抜けるような先生の掛け声とともに、魔本から透明な膜が広がってゆく。それは教室を覆うように広がると、変化は止まった。


「それじゃあ、練習を続けましょうか」


「はいっ!」


 気合を入れなおして、両手を前に出して深呼吸。心の準備をする。


「じゃあ、アフィリアちゃん、やっちゃえ!」


 なんだか楽しそうな様子のマリエラ先生を背に、集中。魔力を手に集め放出する。


「いいわよいいわよ……!」


 先ほどよりも強い光が私の手を包む。

 温かい光は、夜であっても周囲を照らしうるくらいには明るい光を放っていた。


「そのままもう一回、このコップを……あっ!」


 コップを私の所へと持ってこようとしていた先生は、床の小さな出っ張りに足を引っかけて、バタンとこちらに向かって倒れてきた。

 その弾みで先生の手を離れたコップはその中身をぶちまけながら、私の方へと飛んできて……。


「おっと」


 私の手にすっぽりと収まったのだった。

 でも、宙に打ちあがった水がそのままコップに収まるなんてことはなく、『ああ、これは制服を乾かさないといけないな』なんて思って、目を瞑って待っていた。


 しかし、その時は一向に訪れず、私は薄目を開く。私に襲い掛かるはずだった水は、私の周囲で時を止めたかのように、空中で静止していた。


「ごめん! アフィリアちゃん! すぐに替えのふ、くを……え?」


 マリエラ先生はあんぐりと口を開けたまま固まった。


「これ……どうすれば……」


 私の周りには制止した水。頼りのマリエラ先生は、大きく口を開けて彫像のようになっている。


「うーん……えいっ!」


 気合を入れるために、掛け声を一つ上げて、魔力を送り出す。

 それに呼応するように、私の手にあったコップはグラグラと振動を始める。


「えっ? 何っ?」


 コップは私の手を離れ、私の手に収まるまでの軌道を、反対側からもう一度なぞるように、マリエラ先生に向かって宙を滑ってゆく。先ほどと逆向きの回転起動を描き、時が巻き戻っているかのように、来た道を帰ってゆく。


 ペタンと座りこむマリエラ先生の直上まで浮遊を続けると、力を失ったように、すとんと、その手に収まった。


「触れた物体を操る能力……なのかな?」


 宙を浮遊するコップ、その軌道を目線でなぞる。私の手元から、くるくると回転しながら、マリエラ先生の方へ向けて……。


 その時、私の目に映ったのは水だった。コップの中に入っていた水。コップはマリエラ先生の方へと戻っていったけど、その中の水は……。


「わぶっ!」


 魔法で静止していたと思われる水は、効力が切れたのか一斉に私に向かって襲い掛かってきた。結果、私は頭から水を被ることになった。


「アフィリアちゃん!?」


 顔に驚きの表情を張り付けたマリエラ先生が駆けてくる。その手にはコップを持ったまま。


「せんせぇ、冷たいです……。」


「ごめんね! すぐに着替え用意するから!」


 ここが保健室で良かったな、だなんて思ったりした。


「すごいじゃない、アフィリアちゃん。念動系の魔法だなんて! 先生驚いちゃったわ!」


 どうやら、あれは念動系というものに分類されるようだ。つまりは、物体を宙に浮かせたり、動かしたりする力ということなのだろう。


「すごいん……ですか?」


 私からすれば、人を癒せるマリエラ先生の方がよっぽど凄くて貴重な能力を持っているように思える。しかし、先生は私を手放しで凄いとほめてくれる。その目に嘘偽りはなかった。


「もちろん、だって念動系の能力は極めればなんだって動かせるようになるよ? 相手の魔法だって跳ね返せるんだから!」


 運動のたぐいはからっきしな私だったが、これならシンの手を煩わせずに済むのかもしれない。


「それは、うれ、うれ……」


 くしゅん。私の言葉を遮って、くしゃみが飛び出した。


「ああ! ごめんねアフィリアちゃん。 あれぇ、どこにいったかなぁ……」


 戸棚の下段の引き戸を開け、先生はごそごそと中をまさぐっている。おしりを突き出した状態で。

この部屋に男性が居なくてよかった。あれは男をオオカミに変えてしまう凶器だ。先生に、気を付けるようにそれとなく伝えておこう。


「あった!」


 そう言い先生が戸棚から替えの服と取り出した

のと同時に、ガチャリ。保健室のドアが開いた。


「お嬢様、お迎えにあが、り……」


 入ってきた黒髪の騎士は、二人だけの保健室に不自然に置かれている空のコップと、水濡れの私を見て言葉を失った。

 無表情を保っているが、その目は誰が見てもわかるほどに怒っていた。

 まずい、あれは絶対に何か勘違いしている。


「先生、名前は存じ上げませんが、まずはお話を伺ってもよろしいでしょうか? どうしてアフィリアお嬢さまが水濡れに……?」


「シン、これにはじじょ」

「今は先生にお話を伺っているところです」

 

 誤解を解こう、という私の試みもあえなく失敗、シンはマリエラ先生の方へずんずんと歩みを進める。


「えぇと、アフィリアちゃん、に魔法の稽古をつけていて……」


「魔法の? それでなぜ彼女に水をかける必要が?」


「いえ、そんなつもりはなかったのだけれど……あれは事故なの」


「事故……? 事故が起きるような訓練をしていたのですか……?」


 くしゅん。


「あの……シン。着替えたいから部屋を出て行ってもらってもいいかしら?」


 無限に続きそうな言葉狩りに終止符を打ったのは、私のくしゃみだった。


お読みいただきありがとうございます!


いやぁ、大変お待たせいたしました。誠に申し訳ございません。

年内のお仕事もひとまず終わり、ひと段落が着きました。

一週間の年末年始の休暇のうちにどれだけ書き溜めができるかが、これから更新が途切れるかどうかの分かれ目でございます……。


結構なサボり症でございまして、こうして更新を続けるのも、私にしては存外続いているなという印象でございます。

おそらくは、私の作品に対して皆さんという『他人』(言葉そのままの意味です)が関与したのが原因で、自分の満足のために書くのと、他人に見せるために書くのでは、後者の方がひっ迫するものがあるわけですし、自分だけで進行していると『まぁいいや』という気持ちがどこかで出てきてしまうのです。そういう意味でも、皆さんには大変感謝しております。私の作品をここまで読んでいただきありがとうございます。


終わりは見据えている。というか、終わりありきで作った作品なところがありますので、今回のような突発的なお休みはあるやもしれませんが、絶対に最後まで完走します。これだけは確約します。

お付き合いいただければ幸いでございます。


面白ければ、ブックマーク、星で応援いただけると大変励みになります。

皆さまのご期待に沿うことのできるように頑張ります!

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