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銀髪の騎士と陰謀

「アフィリア嬢」


 日もまだ高い昼過ぎのこと、シンを連れ立って学院の廊下を歩いていた私に声をかけてきたのは、銀髪の侯爵令息(ミハイル)


「どうしたの? ミハイル」


 振り返り返事をする。

 目に飛び込んできたのは彼の手に握られた、一つの紙束だった。

 

「少しお話をよろしいですか?」


「ええ、では私の部屋に来てちょうだい」


 一も二もなく密談の用意をするのだった。



×  ×  ×



「失礼します」


「そっちへどうぞ。私はお茶を淹れてくるわ」


「そんな、王女殿下にお茶を淹れさせるなど……」


「いつもはメイドに任せてばかりだから、彼女がいないときくらいは自分で淹れないと、腕がなまっちゃうわ」


 ロセにも調査を頼んでいるため、昼間は彼女も家を空けている。だから、客人のもてなしは私自身の手でしなければならないのだ。

 家では、教養の一つとしてお茶を学んだが、学校の授業以外の学びがなくなった今となっては、お茶を淹れる機会もすっかりなくなってしまった。


 私はこれ幸いにと、自らの技量チェックをするために、台所へと勇み足で歩んでいった。


×  ×  ×


「腕が落ちてないと良いのだけれど……」


 手順も、お湯の温度だって忘れてはいなかった。きっと問題はないはずなのだが、お茶の味というのはどうしても細かいところで変わってしまうものなのだ。注ぐスピード一つ違うだけで、温度が一度違うだけで、渋味や雑味が出てきてしまう。


「王女殿下が直々にお茶を淹れてくださるとは……何たる光栄か」

 

湯気を立てるお茶を前にして、ミハイルは拝みそうな勢いだ。


「味の保証はできないわよ? 学校へ来てからはメイドに頼りっぱなしだったから。お城(じっか)に居たころは、嫁入りの勉強でお茶を淹れる練習もしていたのだけれどね」


「ここへ来て、まだひと月と少しでしょう? そう謙遜なさることもありませんよ」


「そう? なら、味わって飲んでちょうだい?」


 軽い冗談とともにミハイルの対面へ腰を下ろす。

 傍らのシンは、目を閉じて、どうやらお茶の香りを堪能している様子。


「それで、本題に入りたいのだけれど」


 そう言って、お茶請けに用意したクッキーを口に放り込む。


「こちらを」


 そう言って彼が差しだしたのは先ほどの紙束。

 見た限り、何かの契約の書類のようだ。


「契約の書類、ですか……」


 内容を詳しく見てみると、依頼書であることが分かった。


「貴方を攫ったというゴロツキとの契約の依頼書です。名目上は警護となっていますが、依頼した相手はこの前の実行犯です。そして、勤務地はアルケー家別邸。貴方が攫われたあの地です」


 どうして、そんな書類を残しておいたのだろうか。

 処分するなりなんなり、やりようはあるように思うのだけれど。


「なんというか……少し、杜撰(ずさん)ね」


「ええ。断罪を試みる側ではあるのですが、もう少しやりようはあるだろうと、わが父に不甲斐なさを感じておりました。これだけあれば、十分な証拠になるのではないかと思うのですが」


 一息ついてミハイルはお茶で口を湿らせる。美味しいです。との感想を頂いた。


「ありがとう……。これだけあれば、とりあえず誘拐(ゆうかい)に関しては十分な証拠になるわ。あとの書類は……」


 はらりと、紙束をめくっていく。

 その中には、差出人不明の手紙があった。内容はこれまた私を拉致(らち)するための依頼のようだ。


「アルケー侯爵の裏にまだ何か大きな組織が絡んでいるのかしら……」


 私のつぶやきにミハイルは小さな頷きで肯定を示す。

 そして、一枚の封筒を取り出した。


「その手紙は、この封筒に入っていました」


 そう言って、差し出された封筒を受け取る。

 封を開けられた紙の袋には、何も入っておらず、表と裏とを見ていると、(くれない)の印籠が目に飛び込んできた。


「この封蝋の紋章って……」


「──帝国の、それも皇族のものです」


 裏には、私が思っていたよりもずっと巨大な陰謀が渦巻いているようだった。


「ただいま戻りました。お嬢様……いらっしゃいませ。申し訳ございません。大事なお客人がいらっしゃったというのに、家を空けるなど……」


「いえ、お気になさらず。急に押し掛けた私が悪いのです」


「すぐに替えのお茶の用意をしてまいります」


 そう言うと、ロセは足早にだけれど足音は静かに、部屋を出て行った。


「そう長居するわけには……」


「せっかくだから、もう少しだけ付き合ってちょうだい。彼女の淹れるお茶は私のなんかと比べ物にならないんだから」


「……では、もう少しお茶を楽しませていただきます」


 ──茶会の第二回戦は静かに始まった。


 ティーセット一式を携えて戻ってきたロセに、ミハイルの調査の結果をかいつまんで報告する。


「それは……私たちだけでどうにかできる問題でなくなってきましたね」


 そう言いながらも、静かに紅茶を注いでいく有能メイド(ロセ)


「もちろん国王(おとうさま)には報告するわ。ミハイル、この書類預かってもいいかしら?」


「ええ、元よりそのつもりで持ってきたものですので」


「ありがと」


 そう言いつつ、紅茶を促す。これは舌が肥えるのもわかります。というのが彼の感想。

 自分の手柄ではないが少し誇らしい。


「ロセ、あなたの方は何か進捗は?」


「こちらも証拠を、押さえてきました」


 そう言うと、彼女は、小さくて透き通った宝石の玉を取り出した。

 その晶球は、淡い光を放つと、この場の誰のものでもない声が聞こえてきた。


『どうだ、王女の看板に泥を塗る計画は』


「この声は……」


 聞こえてきた声に、ミハイルは銀の髪を揺らし、反応を見せる。


『現在、王女の方でも噂を払拭(ふっしょく)するための動きを見せているようでして』


『頼むぞ。これが成功すれば、王座は我らアルケー一族のものとなる。そのころには、ミハイルも泣いて謝ってくるだろうさ』


 下卑た笑い声を最後に、光は消え音声は終了した。


「愚かだ……本当に愚かだッ」


「ミハイル……」


 隠しようのない怒りが彼の相貌に浮かび上がっていた。


「アフィリア嬢、いや、アフィリア王女殿下。どうか、この愚かな一族に、裁きを下してください。これ以上、こんな蛮行を見逃すわけにはいかないッ!」


「ええ、あなたがこれ以上苦しまなくていいように、彼らには痛い目を見てもらいましょう」


「……ありがとうございます」


 感謝を述べるミハイルの灰色の目からは、涙が流れ落ちていた。


お読みいただきありがとうございます!


Merry Christmas!

というわけで、クリスマスでございますね。

一度町へ足を運べば、イルミネーションが輝き、行き交う人々の笑顔が輝き、実に幸せなクリスマスの日を皆さん過ごしていることでしょう。と言っても、大半の人にとってはただの平日なのでしょうが。


かくいう私は、姉が今年の七月に生まれた姪っ子を連れて帰ってきておりまして、彼女の楽しそうな声であったり、泣き声であったりを聞きながら執筆をしておりました。

実に幸せです。


と、幸せな私の家庭とは裏腹に、作品の方はもう一波乱が起きそうな予感ですね。

クリスマスなので少し幸せな話を、とも思ったのですが、ここで話をぶった切って差し込むのもなぁというのと、時系列がおかしなことになるのが目に見えているので、今回は遠慮させていただきました。


またのご縁があれば、幸せなお話にも登場いただきたい所存です。


面白ければ、ブックマーク、星で応援いただけると大変励みになります。

皆さまのご期待に沿うことのできるように頑張ります!

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