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勧誘と無属性魔法

「……叛意(はんい)。 アルケー家は、私たちメルクーリの家系を王座から引きずり降ろさんとしていると、そういうことなのね」


「それで、相違ございません。欲に目がくらんだのか、あるいは何者かに(そそのか)されたか、理由は分かりかねますが、私が学院に入学する少し前に、私にも手伝うように言ってきまして。それを断って以来、家には寄り付かないようにしているのです」


私に対しての申し訳なさと、家族に対しての情けなさとを、その苦々しい表情に忍ばせながら、銀髪の青年(ミハイル)は答えた。


「シン、これなら……」


 傍らに控える黒髪の騎士に確認。

彼はただ首肯のみで、肯定の意を示した。


「あのね、ミハイル。貴方に言わなければいけないことが二つ。お願いしたいことが一つあるの」


「……聞きましょう」


 ミハイルの返答は重々しい。先に兄上のことを聞いた私が『言わなければいけないこと』なんて言うものだから、大体の察しはついていると見える。


「今回の、私の噂の騒動のことなんだけれど、それを学校中に流布したのがサイモン・アルケー卿。貴方の兄上であるとの情報が入ってきたの。芋づる式に辿っていった先に彼が居たらしくて、裏付けはまだとれていないのだけれど、今のあなたの話を聞いて確信したわ」


 サイモン・アルケーは黒だと。


「兄上が……」


 ミハイルの表情は驚きというより、(あき)れの方が強い。


「もう一つなのだけれど、実は昨日私、誘拐されて」


「……ちょっと待ってください。誘拐された!? 一国の姫であるアフィリア嬢が? シン殿、貴方は一体何を……!」


 怒気を孕ませた声で、シンを叱責(しっせき)するミハイル。


面目(めんぼく)ない」


 シンは怒られた子犬のように、しゅん、と小さくなる。

 

「ミハイル、それくらいにしてあげて。彼、すごく反省していたのよ? それに、私だって警戒が足りていなかった。彼を叱るなら、私だって叱られるべきよ」


「……失礼しました。出過ぎた真似を」


「いいの、貴方だって私の身を案じてくれているのでしょう? それで、話を戻すのだけれど、その攫われた先がアルケー家(あなたの実家)が保有する屋敷だったの。おそらくこっちにも、アルケー侯爵が絡んでいると見ていいでしょうね」


 顔に浮かべていた呆れの感情を、さらに強くするミハイル。

 無理もない。生家が国賊に成り下がろうとしているのだから。


「愚かな……。今すぐにでも、処断すべきです」


 身内であれど……身内だからこそだろうか。彼は容赦なく、断罪を求める。これ以上世間に恥をさらす前に、止めてくれと。


「そうしたいのは、やまやまなのだけれど、いかんせん情報が足りないのよ。状況証拠はあっても、物的証拠がないから言い逃れのし様がある。だから、貴方にお願いしたいの。アルケー家の人間である貴方に、屋敷の捜索を」


 彼の話を聞いている限りだと、少し難しそうな気もするのだけれど、これに関しては頼める先が彼しかいないのだ。


「私にお任せください。かの国賊どもの、動かぬ証拠を必ずや手に入れてみせます」


 ミハイルは、深い覚悟を感じられる目つきで、頷いて見せるのだった。



×  ×  ×



ミハイルを味方に引き入れたその後、私は魔法別に分かれた授業を受けるために、シンと離れて指定された教室へ向かった。


「無属性魔法担当の、マリエラです。よろしくね、アフィリアちゃん」


「アフィリア・メルクーリです。よろしくお願いいたします」


 教室へ着くと、ピンクの髪と目をしたオトナの女性が居た。


「かわいらしい女の子が来てくれて、お姉さん嬉しいわ」


「ちょ、やっ」


 むぎゅ、と彼女の大きな胸を押し付けながら抱きしめられる。息ができない。


「へんへい、いひはふぇひふぁいふぇふ」


 彼女の背中をポンポンと叩きながら、ギブアップを必死に知らせる。

 視界が白くなってきた気がする。


「あっ、ごめんねぇ、お姉さんちょっとコーフンしちゃって」


 ぽっ、と頬を赤らめて、身を引くマリエラ先生。

 この学園は至る所に危険が潜んでいるようだ。


「……いえ、お構いなく」


「ありがとねぇ、じゃあ、授業を始めちゃいます!」


 先生は、えへん、と大きな胸を前に張り出して、意気込む。

 気合十分といった感じ。


「よろしくお願いします」


「はぁい、よろしくお願いします。じゃあ、まずは無属性魔法の詳しい話をしましょうか。アフィリアちゃん、無属性魔法についてどこまで知ってる?」


「レイモンド先生から聞いたこと以上のことは……ただ無属性魔法は、どちらかというと分類不明に近いと」


「うん。大体はそれで合ってるよぉ。そうだね、まず無属性魔法がどういう仕組みかってところなのだけれど、人間は魔力を扱う際に、マナと呼ばれる空気中の魔力を、体に取り込みます。体に取り込んだ時に、それぞれがうーんと、フィルターみたいなものを持っていて、それは属性を帯びているの。その属性によって、それぞれが使える属性というのが決まっていきます」


 体内に取り込むときに、自らの扱える属性に変換することで、各々が使える属性が決まるということのようだ。

 私の返事を待たずに、先生は続ける。


「無属性使いには、このフィルターが存在しません! だからぁ、マナをそのまま使うことができます。これがどういうことかわかる?」


「……ほとんど魔力が使い放題、ということでしょうか」


 先生は私の答えを聞いて、にっこりと笑顔を浮かべると、両手をパチンと合わせた。


「正解! 魔力の変換が必要ないから、運用効率が段違いなのよ。それに、魔力の変換には体力を使うのだけれど、無属性使い(わたしたち)はそんなもの気にしないで、魔法を打ち放題! ってワケなのです!」


 それだけを聞くと、ほかに比べて大きなアドバンテージを持つように聞こえる。


「……ということは、無属性を使うことのできる人は、かなり他に比べてアドバンテージを持つ……と」


「そういうこと! ただ問題があって、ほかの属性は戦闘にも使える物ばかりなのだけれど、無属性はそうではないの。そもそも、何をできるかが共通していないから、何を練習すればいいかもわからないのだけれどね」


「……例えば他属性の低級魔法のように、魔力をそのまま放つなんてこともできないのですか?」


「魔力の変換する必要がない代わりに、無属性魔法使いは、魔力を放出する際に、その形態に制約を受けるの。それが、各々の固有の魔法になるわけ。私の場合は……」


 そう言うと、先生はパチン、と指を弾く。

 次の瞬間、マリエラ先生の手が、淡い光を放つ。


「私の魔法は、治癒。人の傷を癒す治癒魔法の使い手よ。ちなみに、お肌のトラブルにも効果テキメンよ?」


「治癒……」


「そう、もう一つちなんでおくとぉ、私の本職は養護教諭、保健室の先生よ」


 ──指定された教室は、保健室。私、アフェリア・メルクーリは、保健室学習をすることになるのだった。


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