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過保護と犯人

「あのお屋敷って誰のものだったのかしら」


寮に帰った私はロセの作った夕食を食べながら、そう零した。

しかし、そう質問しながらも食事の手は止まらない。

仕方ない、今日はお昼抜きになってしまって、お腹が減って仕方がないんだもの。


「場所が分かれば、調べることは可能です……こっちを向いてください」

「そのくらい自分で……ありがと」


 私が食事をしている間、ロセは隙を見つけては私の口を拭ったり、肉を切って食べさせてくれたり、甲斐甲斐しく世話をしてくれるため、なんだか赤ちゃんの頃に戻ったような気分。

 別に、(さら)われたからって、体に何かがあるわけではないのだけれど。ただ、すっごくお腹が空いているだけで。

 それだけ心配をかけてしまったのは分かるのだが、赤子か幼児かのような扱いをするのは是非やめていただきたいところである。


「はい、お嬢様。口を開けてください。あーん」


「……あーん」


 それを見るシンは非常にほほえましいものを見ている顔をしている。それこそ赤ん坊を見るような。


「ちょっと、見てないで助けてよ」


「うーん。今回はちょっと僕もロセさんに強く言えない立場だからね……頑張って耐えて」


 無情なり。十六にもなってまさかこんなことになるとは。

 

「……ごちそうさまでした」


 食事が終わり、やっと解放されるかと思ったその時。


「では、お風呂に入りましょう。心配はいりません。私が洗って差し上げます」


「……」


 もう声を出す気力もなかった。

 

 身を清め終わると、そのまま布団に放り込まれ、丁寧に寝かしつけまでされた。

 今日はいろいろなことが押し寄せてきて、とっても疲れていたので、すぐに意識は夢の世界へと旅立った。



×  ×  ×



 窓から差し込む陽光で目を覚ます。春から次第に夏へと移り変わるこの時期の日の光は温かく、穏やかな覚醒を促してくれる。


「んっ~!」


 大きく伸びをすると、ぽきぽき、と背中から子気味の良い音が聞こえてくる。

 その時、部屋の扉から、コンコン、と控えめなノック音。


「どうぞ」


「失礼します、お嬢様。お早いお目覚めですね」


 私よりずっと早起きのロセがそんなことを言う。


「おはよう、ロセ」


「おはようございます。朝食の準備ができています」


「ありがと、顔を洗ったらすぐに行くわ」


 半覚醒のどこかふわふわした頭で、洗面所へ向かう。

 パシャパシャと冷たい水を顔に浴びせると、眠気はどこかへ飛んでいって、鏡を見るとぱちりと目が開いてすっきりとした表情。

 ぐっすり眠れたので、昨日の疲れも残ってはいない。


「おはよう、シン」


「おはよう、リア。よく眠れた?」


「ええ、もうぐっすりよ」


 食卓の上には、ロセの作ったサンドと湯気を立てるコーヒー。


「いただきます」


「「いただきます」」


 皆が揃ったところで、食事が始まる。


「そういえば、昨日のお屋敷、場所は分かったの?」


「もちろん。道は覚えていたからね」


「じゃあ、どこのおうちのお屋敷かも、もう分かった?」


 そう聞くと、ロセとシンは顔を見合わせて、少し言いづらそうな顔をする。


「うん? なんでそんな反応?」


 ロセはどこか申し訳なさそうに口を開く。


「──アルケー侯爵家の屋敷です」


 アルケー侯爵家、つまりは……。


「ミハイルの生家……?」


「そう。そのアルケー侯爵。ミハイル自身が関与しているかはわからないけど、少なくともあの屋敷は、アルケー家は保有しているものだった」


 私を(さら)ったのは、知人だったと。理由は……王族を誘拐するということは自ずと絞られてくる。


「直接聞きに行く?」


「いや、かれがどこまで関与しているかわからない以上、聞きに行くべきじゃない」


「……そうね、彼に言ってアルケー卿に伝わる可能性だってあるんだもんね」


「そういうことだね。もう少し慎重に動いていった方がいい」


 ミハイルが関わっている場合、彼に話を聞いた時点でアルケー家に私たちが気付いたという情報が渡る可能性がある。できるのであれば、逃がすことなく叩きたいので、できるだけ気取られないようにしたい。

 もちろん、今回の誘拐が失敗したせいで、向こうは私たちに気づかれているという前提をもって動いてくるのだろうが。


「じゃあ、とりあえずは警戒しつつ普段通りにしていればいいのね」


「うん。あんなことがあったばっかりだ、僕も警戒はするけど気を付けておいてほしい。もう、昨日みたいなことがないように」


「言ったでしょう? 私はあなたの前から居なくなんてならない」


「……そう、だね」


 少し不安の混じる彼の視線を浴びながら、朝食をとるのだった。



×  ×  ×



「ごきげんよう。ミハイル」


「ええ、おはようございます、アフィリア嬢」


 教室に行くと、ミハイルはいつもと変わらずの様子で、授業の準備をしていた。

 特に不自然な様子は見当たらない。


「? 何か変なところでもありますか?」


「っ、いえ、何も。休日は何を?」


 少しじっと見過ぎた。彼に何かを気取られたのだろうか。


「恥ずかしながら、魔法が使えることに少し浮き足立ってしまいまして。図書館で資料を探しつつ、練習場で魔法の自主練習をしていました。アフィリア嬢は何を?」


「私は、この前のこともあって、より民を知るために町へ出ていました」


「タキトゥス(きょう)とですか?」


「……そうですが、どうして?」


「揃いのイヤーカフをつけているではありませんか」

 

 ミハイルは自らの耳を指差しながら、そう言う。

 頬に(しゅ)が差すのが分かった


「……ええ、彼に買ってもらったものです」


「主従仲がよろしいのですね。まるで恋人同士のようだ」


「こいっ、恋人だなんて。私と彼とはただの幼馴染であって、決してふしだらな関係などではないのです、決して」


 後ろのシンが、口を開く。


「アルケー卿。ただでさえ、よくない噂が立っているのです。これ以上は控えてもらいたい」


「おっと、失礼。別に悪い意味ではなかったのですが、そう取られかねない発言でしたね。慎みます」

 どれだけ話していても、ボロを出すような気配もない。何なら私の心が恥ずかしさでかき乱されるのだった。

 


「アフィリア様」


 ミハイルの疑惑は晴れぬまま、無用な追及を避けて自らの準備に取り掛かっていた時、青髪の生徒ヨハンが声をかけてきた。


「おはよう、ヨハン」


「おはようございます。例の噂の剣なのですが、噂の出元であろう生徒は、とある男から金銭を対価に依頼されたとのことです。ですので、意図的に流布された噂であろうことは確かかと」


「ありがとう、ヨハン。とりあえず最低限必要な情報は手に入ったわ。あとは、誰が依頼したかね……」


「それについてなのですが、とある生徒が世間調査と称してアンケートを取っていると。そのアンケートの中に、アフィリア王女殿下についての項目があったのですが、そのアンケートを取り仕切っているのが、サイモン・アルケー。ミハイル様の兄上なのです」



お読みいただきありがとうございます!


物語は少しずつ動いてきたでしょうか、といったところです。

寒さも厳しくなってまいりました。今年もあともう少し、インフルエンザやコロナウイルスが流行する時期でもあります。皆さんは体調いかがでしょうか。

皆さんが体調を崩すことなく、良い年末を過ごせることを願っています。


──と、大みそかのような挨拶をしましたが、特に更新を途切れさせる予定はなく私が元気な限りは更新させていただきたいと思います。

 どうか引き続き、拙作にお付き合いいただければと思います。


面白ければ、ブックマーク、星で応援いただけると大変励みになります。

皆さまのご期待に沿うことのできるように頑張ります!

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