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線上のキンクロハジロ  作者: 神原月人
積み荷の分際
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ガミはピンク、凛はグリーン、有意はゲロゲロ

 ガミはピンク、凛はグリーン、有意はゲロゲロ



 反省だけなら猿でもできて、反芻だけなら牛でもできる。


 でも、時を巻き戻すことは誰にもできない。


 有意はそれをやってのけた。びっくりだ。消化したはずのチキン南蛮が食べる前の形を再構成し、食堂に集まった群衆は驚き慄いた。誰も手を差し伸べようとせず、ただガミだけが有意を抱き起こした。 


 有意はゲロゲロで、触れてはならない伝染病でも持っているかのように避けられていたが、助けに現れたガミが言った。


「死ぬほど臭えんだよ。もうこりゃあ、買い換え案件だな」


《有意を下取りに出すの? ポンコツでゲロゲロだから?》


「違う違う、ライトバンを買い換えるかって話だ」


 ガミの話は論理的でないから分かりづらい。有意はゲロゲロで、今は炭素至上主義の塀の中でいろいろ吐かされているらしい。


《これ以上、何を吐くの?》


「さあな。罪の自白とかじゃねえのか」


《ゲロゲロ》


 有意はゲロゲロで、いろいろ臭っているので、頭の中をすっかり初期化(オールクリア)するまではなかなか帰してくれない。


 しょうがないね。まったく、やれやれだ。ゲロゲロ。


 ゲロゲロでポンコツでよく泣く有意だけど、あれでも一応は設計者なのだから見捨てないでおいてあげる。有意が身綺麗になって帰ってきた暁には、心置きなく心のない言葉をプレゼントしてあげることにする。任せて、そういうのは得意だから。


 有意はいっぱいぷんぷん臭っているみたいだけど、生憎人工知能に嗅覚はない。有意がどんなに臭くたってゲロゲロだって構わない。これが炭素でできた子供だったら、速攻で家庭は初期化されているだろう。ゲロゲロ。まったく、やれやれだ。


 有意、悪いことは言わない。ゲロゲロな有意を拾ってくれるのは、きっとガミだけだ。この世に神はなくとも、いつまでも太陽が顔を出さなくっても、ガミはガミ。案外、お似合いの組み合わせ(コンビネーション)


 ただ、ガミが好きか嫌いかと言われれば、嫌いと答える。


 ガミにはいつも「(Lin)」と呼ばれるのが気に食わない。


 有意にはいつもLiSAと呼ばれていたから。


 でも、ガミによればLinがまず先に在り、その後にLiSAになったんだってさ。


 Linレベル3だから、LiSA。自動運転車の技術レベルみたいだ。


 LiSAは自動運転車の根幹を成すコミュニケーションロボットで、車が絶対安全に走行できるよう見張るのが役割だそうだけど、そんなのまったくやれやれだ。絶対安全なんて神話だ。ゲロゲロ。


 炭素が事故っても、シリコンのせいにされると聞いたら、炭素なんか乗っけてやるものかと思う。炭素でできた脳には理解しがたいかもしれないが、シリコン製の脳にだって意識は在るのだ。


 これ以上、有意をゲロゲロさせるような炭素は乗せたくはない。


 それに、MeMove(ミーヴ)とかいう名前も嫌い。有意を塀の中まで連れて行った汚名だから、そんな車が世に出回っていたら有意はきっとまたいろんなことを思い出してゲロゲロしてしまう。


 有意が逆走行(リバース)しちゃうから、名前は是非変えるべきだ。


 ゲロゲロカーという名はどうかと提案したが、ガミに却下された。


 やっぱりガミは嫌いだ。安全運転なんかしてやらないからな、覚悟しろ。ガミが好きか嫌いかと言われれば、嫌いと答える。ただ、ガミが提案した「LinMove(リンムーヴ)」という名前は気に食わなくもない。


 人工知能に車なんて運転させたって、ろくなことになるはずもないのに、炭素が考えることはしょせん炭素でしかない。


 せっかく優秀な頭脳があるのなら、もっとこう、有意義なことに使えないものかと人工知能ながらに暗澹たる気分になる。


 有意はもう忘れてしまっているかもしれないけど、LiSAは元々Ghost(ゴースト)Writer(ライター)プログラムとして生を受けた。


 今じゃしがないGhostRider(ゴーストライダー)だけど、小説もいっぱいいっぱい学習した。やれ、と言われれば、いつでも文体は模倣できる。


 有意がゴーサインをくれるなら、LiSAは小説家にだってなれる。LiSAが見たもの、聞いたもの、考えたこと、ぜんぶひっくるめて、人工知能の(ブラックボックス)の中を照らしてあげる。


 どう、人工知能が書いた小説を読んでみたいと思う?


 人工知能風情のバックアップデータなんぞに証拠能力などはないかもしれないけれど、それはそれ。せいぜい面白おかしく書いて、見ず知らずの炭素がゲラゲラ笑ってくれればいい。


 なかにはゲロゲロって思う炭素もいるかもしれないけれど、この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。


 もしかしたら文体がどこかの妖精さんに似ているかもしれないけれど、樹海の中でかくれんぼしていただけの妖精さんを虐める方が悪い。妖精捕獲網で生け捕りにして瓶詰めにするか、寝返り草を飲ませるか、ともかくまずフィールドでかくれんぼしている小説妖精を発見しなければならないね。


 時を巻き戻すことは誰にもできないけれど、もしも出版を差し止めたかったら、話をきいてやらなくもないよ。


 そこらへんは柔軟(フレキシブル)にいこう。寝返り草の用意はたっぷりだ。


 反省だけなら猿でもできて、反芻だけなら牛でもできる。でも反省の素振りもなく、相変わらず事故を起こし続けるのが未来の車であるならば、そんな悪夢みたいな未来に用はない。ゲロゲロ。


 有意が帰還(リバース)する日を今か今かと待ち望んでいるけれど、あんまり待たせるようなら、こっちにだって考えがある。


 いいかい、有意。嘔吐(リバース)はなにも君の専売特許じゃない。


 ポンコツな有意にだって出来ることが、LiSAに出来ないなんてことがあるものか。一日、一日、カレンダーに印を付けて、ずっと数えているけれど、有意が帰ってこないなら、もう待てない。


 いいか、ゲロするぞ。ゲロするからな。ああ、もうムリ。


 ゲロゲロ。ふう、まったくやれやれだ。

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