表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
線上のキンクロハジロ  作者: 神原月人
積み荷の分際
90/100

違和感

 試験走行場を後にして、駐車場に停めたReMove(リーヴ)に乗り込んだ。


「おい、有意。いつからあの標識に目を付けてたんだ」


「車載カメラの映像を見たときにちょっと違和感があったんです」


「ああ、ゲロったときか」


 運転席に座った鴻上は薄笑いを浮かべ、まだ車を発車させる意思はないようだった。在沢はむっ、としながらLiSAの頭を撫でた。


「ガミさんは事故の瞬間の車内映像を見てます?」


「見てねえな。あの場に居合わせたしな」


「外から見ると不自然ではなかったかもしれないですけど、中から見ると柊木は相当不自然な動きをしているんです。リサ、車載カメラの映像を出して」


 LiSAは何か言いたげだったが、黙ってタブレットに映像を投影した。擦り切れるほどに見たときは吐き気が込み上げてきたが、努めて客観的に眺めれば、なんとか堪えることができた。


「衝突する前から、明らかに防御姿勢をとってますよね」


「ああ、確かにな。露骨にガードしてやがるな」


 映像の中のミーヴは網野晃を轢いた後も走行し続け、路端の標識に激突し、黒煙を吹き上げた。最高速度は百キロ、と示した標識がほんの一瞬映し出された後に画面がぶれ、フレームアウトした。


「CDRレポートだと、衝突の五秒前には100キロ出ていたじゃないですか。そういえば、標識も100だなって」


「たまたまじゃねえの。高速道路の法定速度は100キロだし、標識自体には意味はねえだろう」


 鴻上がタブレットを投げて寄越した。


「なんかサブリミナル的な感じで、100キロを出さずにいられないようにさせたとか」


「阿保か、誰を洗脳するんだよ。お前は運転してねえし、アクセルも踏んでねえだろ」


 まったく取り合ってくれず、在沢は不満げに唇を尖らせた。


「でも、国土交通省の関与はあったじゃないですか」


「それは収穫だったな」


 鴻上もまた道路標識に何かしらの作為を見出したようだ。


「ガミさんはあの標識、なんの意味があると思ってます?」


「目印じゃねえの」


「どういうことですか」


 鴻上は何か重要なことに気がついたらしく、在沢はごくりと唾を飲んだ。


「網野晃を計画的に轢き殺すためには、好き勝手な位置に立っていられても困る。ここに立っていろ、と伝えるための目印だったんじゃねえのか」


「なるほど。そうかもしれないですね」


 網野晃をあらかじめ走行路のど真ん中に立たせ、報道カメラを向けさせるにしても、明確な目印がなければ、網野がどこに立つかはかなりの誤差が生じてしまう。


 当日はマスコミが多く詰めかけていたから、列の先頭に立つか、最後尾に立つかで衝撃の度合いも変わってくるだろう。しかし走行路にあからさまな目印を設ければ、事故後にすぐ判明してしまう。走行路周囲にあってもなんら違和感はなく、立ち位置をそれとなく指定するには、道路標識ほど打ってつけの存在はない。


「でも標識よりかなり前に立ってましたよね。網野を轢いてから、標識に当たって止まったんですから」


 標識は車止めの役割を果たしたことを考えると、立ち位置の目印となったとは言い切れないような気がした。


「標識の十歩前に立っとけ、とか指示すればいいだけだろ。男子トイレにもあるだろ。もう一歩前へ、ってやつが」


「ああ、はい。ありますね」


 在沢が平然とうなずくと、鴻上が鼻で笑った。


「なんで男子トイレ事情を知ってんだよ」


「平素は男として生活していますから、男子トイレを活用させていただいております」


「お前、男が小便しているの、どんな目で見てるわけ?」


「便利そうだなあって」


 在沢がぼそりと言うと、鴻上は腹を抱えて大爆笑した。


「そんなに笑います?」


「悪い、悪い。笑っちゃいけねえんだろうけど、ついな」


 ひとしきり笑った後、鴻上はようやくエンジンをかけた。


「そんじゃ、次は筑波スカイラインまでぶっ飛ばしますか」


《もう一歩前へ!》


 話したくてうずうずしていたらしいLiSAが、またもや一癖ある言葉(ワード)を学習してしまった。


「オーケー、レッツゴー!」


《ゴー、ゴー、レッツゴー!》


 ハンドルを握った鴻上は、放たれた獣のような勢いでReMove(リーヴ)をぶっ放した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ