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線上のキンクロハジロ  作者: 神原月人
線上のキンクロハジロ
9/100

企業イメージ

 鴨志田が去った後、ようやく空席のできた店内に席を移した。


 林田はマスターに本日何杯目かのコーヒーを頼み、ついでにアップルパイを注文した。


「さっきの人、なんだったんですか」


 酸味の強いエチオピア産のコーヒーを飲みながら登美彦が訊ねた。


「企業向けのキャラクターデザインとかキャラクターライセンスの管理業務をやっているコンサルタントらしいね。食えないアニメーターをイラストレーター代わりに使っているだけの気もするけど、響谷君が勝手に呼んじゃったみたいでさ」


 マスターがコーヒーを淹れている間、林田はアップルパイを口に運んでいる。


「絵一枚五万円の報酬らしいけれど、複数のイラストレーターでのコンペ方式らしくてね。デザインしたキャラクターが企業に採用されなかったら報酬はゼロだ、って聞いて響谷君、すっかり興味をなくすし。大塚さんは最初から乗り気じゃないし。こっちに呼びつけたから、邪険にもできないし。いろいろと厄介だったよ」


「それで僕にお鉢が回ってきたってことですね」


「おかげで間が持ったよ。オウンドメディア戦略がどうとかさっぱり意味分からないことを語り始めるし、パートナー契約を締結いただければ、ハバタキの会社ロゴを特別に無償でお作りいたしますだなんて調子の良いことを言いだすしさ」


 マスターから淹れたてのコーヒーを受け取った林田は、いかにも気疲れしたような表情を浮かべている。アップルパイはもう半分ほどなくなっていた。


「作画が本業の集団を相手にロゴ制作してやる、という提案もどうかと思いますが」


 登美彦が率直な感想を述べると、林田も大きくうなずいた。


「うちはホームページに所在地と電話番号を載せているだけだし、SNSもやってないし、会社ロゴもなければマスコットキャラクターもない。それは事実だし、作らなきゃいけないとはずっと思っていたんだ。サンプル案を聞くだけだし、タダならいいかと思ってね」


 鴨志田から手渡された名刺を裏返し、登美彦がぽつりと言った。


「さっき図書館で調べて知ったのですが、オシドリって相当な浮気性らしいです」


 登美彦は深川図書館でコピーしてきたコラムと、妃沙子の描いたキンクロハジロの絵を林田に見せた。潜水して餌をとるがゆえになかなか飛び立てない夜行性の寝癖鳥は、浮気性のオシドリなんかよりもよほど企業イメージを正しく象徴している気がした。


「これは?」

「キンクロハジロです。ハバタキのマスコットキャラクターにぴったりかなと」


 妃沙子の描いた絵をしばらくじっくりと眺めた後、林田はコラムを一字一句も漏らさぬような真剣さで読み始めた。


「奥野君さあ……」


 林田がひょいと顔を上げる。


「固いプリンって好き? ここのブラジルプヂンっていうのが絶品なんだ」

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