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線上のキンクロハジロ  作者: 神原月人
セーサク、シンコー
33/100

コケたら首括るしかないね

藤岡春斗

 下請けから脱皮したばかりの新興アニメーションスタジオ『ハバタキ』のメンバーは、打ち合わせの際、コケたら首括るしかないね、などとキナ臭いことをぼそぼそと囁き合っていた。

 会議室代わりの卓袱台を囲み、林田社長は終始無言だった。

 下っ端の奥野登美彦は、スナック菓子やお茶やらを用意している。

 一介の軍隊アリ(アニメーター)から女王アリ(監督)にまで成り上がった大塚妃沙子は、殺伐とした空気の中、チュッパチャプスを舐めていた。

「ハルちゃんも食べる?」

 食べかけのチュッパチャプスをくれようとしたので、苦笑いしながら遠慮すると、代わりにアイスクリームをくれた。

「ハルちゃんのために買い置きしておいたんだよ。食べて、食べて」

「あ、どうも」

 小さく会釈してから、アイスの蓋を開ける。

 コケたら首を括るとかどうだとか、妙にキナ臭い会話を交わしている大人たちをよそに、ちびちびアイスを食べていると、響谷Pが口を開いた。

「ハルちゃん、樹海を舞台に、なんか良い感じの脚本(シナリオ)を考えてよ」

 いくらなんでも唐突過ぎて、おかげでハーゲンダッツのクッキー&クリームを食べる手が止まってしまった。

「樹海?」

「そ、樹海」

「樹海って、あの富士の青木ヶ原の?」

「そ、自殺の名所」

 響谷Pは、いっそ不謹慎なぐらいに楽しげだった。

「なんで、樹海なんですか?」

「そこはまあ、大人の事情でね」

 古狸のような響谷Pはちらりと妃沙子の方を見てから、さりげなくお金のポーズをした。よく分からないが、だいたいは察した。

 アニメ製作の出資者(スポンサー)に、樹海を舞台にしてほしい意向があるのだろう。

「それってどんな意向?」と思ったが、詳しくは聞くまい。などと、華麗に素通り(スルー)したのが間違いの源だった。

 あの時、根掘り葉掘り、聞いとけばよかった、と今さらながらに後悔する。

 しかし、もう遅い。

 もう、ばっちり見てしまった。

 首を括った人間の末路を。

 これって、警察に通報すべきなのだろうかとも思ったが、「そこはどこですか?」と聞かれても、「樹海です」としか答えられない。

 そもそも携帯の電波は届いているのかな、と尻ポケットに入れたままのスマホを見ると、間の悪いことに充電が切れていた。

 なんだか悪い夢を見ているような気がして、目が覚めたらベッドの中だった、というオチだったらいいのに、どうやらそうもいかなかった。

 頭の中で、コケたら首括るしかないね、という言葉がぐるぐると渦を巻いた。

 ――コケたら首括るしかないね

 ――コケたら首括るしかないね

 ――コケたら首括るしかないね

 樹海を形成する樹々一本一本がざわざわと揺れ、立ち尽くす春斗を嘲笑っているかのようだった。

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