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3. 方舟

『方舟』


目覚めたのはある部屋の一室だった。


「………どこここ」


起きる前までの記憶が曖昧だ。寝すぎだな。

体を起こしてベッドに腰掛ける形になる。

……あぁ、私、ベッドに寝てたのか。ご丁寧に。

今更ながらにそんな事を思い、改めて部屋を見渡してみる。


ワンルーム、いやこれは1Kか?

何故か、自分が学生のときに住んでいた部屋が彷彿とされた。ベッド、ちゃぶ台、テレビが大部分を占める部屋にどこか懐かしさを感じる。やっぱここ、どこかのアパートか?今どきこんな古臭い間取りも珍しい。てか拉致?監禁?されてるの今もしかして。やば。


寝起きの回らない思考ながらつらつらとそんな事を考える。

そして思考は飛び続ける。


という事はここは誘拐犯の部屋……、部屋の感じ学生か?私に何を求めてるんだ全く。金か?身体か?いや分かんねー。

まず誘拐した人を一人でこんなとこに放っておくのがまず分からんわ。拘束もされてないし。私が起きるとか思ってなかったんか。それとも逃げられない自信でもあるのか…。それにしてはえらい金かかってなさそうな造りだけど。


「あ」


そういや、動けるじゃん私。ベッドの上で今まで何してたんだろ。寝起きでスマホ見てたら30分経ってましたーみたいなやつみたいだ今。

そうだ、別にここにいなきゃいけない意味ないし。むしろ被害者(推定)としては一刻も早くここから出なきゃだし。誘拐犯(推定)が来る前に最低限ここの作りを把握したいとこ『ヤバいっ』──え……。




暗転




「………寝てた?私」


寒くて目が覚めたらしい。半袖短パンで、布団も掛けてなければそりゃ当たり前か。風邪はひいてなさそうだけど、ホント馬鹿。……ぐぅ。


「お腹空いた……食べもの……」


あった。

コーンスープと丸パン。コーンスープからは湯気が出てるし丸パンの横にあるバターは溶けかかってる。つまり、これは出来たて。……何故?


「ま、いっか。とりあえず食べよ」


いただきます。

うん、美味しい。いい意味で想像通りの味がする。いやー誰か知らないけどこんないいの置いといてもらっちゃってもー。起きる時間と空腹を見計らって作ってくれるなんて。なんて素敵なんだ、ろ……あれ、お皿落とした?誰か


んな訳あるか。え待って待って。さっきまで何考えてた私。この状況に対して何も違和感なかったのヤバすぎて笑える。何なに思考操作されてたってこと?『えうそバレてる……?』──誰あの声。女、の声だよ、ね?なんで何で、どうして、え私この人に連れてこられたの?で何も思わずに料理まで平らげると。はーっ、大分キてんね私。やば。


ということは私誰か、推定あの女だけど、に連れてこられたってことでファイナルアンサー?はい、ファイナルアンサー。うん、事件乙。やばーこんなの重大事件じゃんか。テレビとかでトップニュースになるやつ。警察に「この周りは包囲されています。大人しく投降しなさい」とか言われるやつ。あ、それは監禁事件か。じゃあ違うな。……いや、されてるのか?もしかして。見たところ手足は縛られたりしてないし脅された覚えもないけど……。んー、玄関開くか試してみるか。

『それは駄目っ、先輩〜〜』

───え、複数犯だったの……?



暗転



「──ん……、よく寝た」


『──、朝よー』なんて声が聞こえた気がして目が覚める。当たり前のように見慣れた部屋で、いつものようにポヤポヤした思考を巡らす。あーこれで毎日3、40分溶けるんだよなぁ。いけないって分かってるのに消費されていくこの時間。なければもっと早く支度できるのに。でもできないの。分かるかなこれ。

そんなこんなで時計は7時30分を指し。そろそろ朝ごはんを食べて、支度始めないと本当にヤバい時間になってきた。スマホを弄ってた手を止めてベッドから降りる。


───手紙?


【拝啓】

突然の手紙で驚かれたことでしょう。

私は、貴方たちの認識で神と呼ばれる者です。この世界の始まりから今迄を見守ってきました。祝福を与えたことも大昔ですがありますし、人間の言うお告げというものも行った記憶があります。

今回、貴方に手紙を送らせていただいたのも、お告げのようなものです。古のように、言葉で伝えてもいいのですが、やはり時代の流れに乗るべきかと思い、このような手段を取らせていただきました。神は実は電気機器と相性が悪く、申し訳ありませんがそれ関係のご指摘はお受けしかねます。ご了承ください。


では、本題に入りましょう。

現在、この世界、地球上に生きる人間ホモ・サピエンスは貴方だけです。閉まってるカーテンを開ければ納得いただけるかと思いますが、この世界はほぼ滅亡しました。

なのに何故貴方は生きているか?

全くの偶然です。神の名をもって断言しますが、この現実に神的な何かが働いた形跡はありません。


ただ、これからの未来は違います。貴方はこのままでは食事も満足に取れず、周囲の環境も相まって呆気なく死ぬ運命にあるでしょう。そのため、貴方の今いる部屋に加護を授けました。その部屋から出ない限り、貴方の生活は今までのまま保証されます。電気も水も、勿論食物も心配する必要がありません。

古にはノアという者がおりました。彼は大洪水の際に方舟で逃れましたが、現代、貴方がノアなのです。アダムでありイブでもあるのです。できればこのまま、現実を受け止めて生きてはもらえませんか。私は貴方の生死に干渉することはできませんが、貴方の生を誰よりも願っていることに変わりはありません。どうか、どうか、負けないで──。

【敬具】


は。

本当だ。

────ガチャ、バタン




暗転




『──ね、だから言ったじゃない。人間は軟弱なのよ。ノアが強靭すぎただけ』

『そうみたいですね先輩。でも、どうしたってみんな自分から死を選んでくんだから。分からないものです』

『貴女散々干渉してたものね。それで誘拐犯と言われたら世話ないわ』

『本当に。搦手でも外に出てしまうから直球でって思ったのにやっぱり駄目だったし』

『あれは貴女がコンティニューしすぎたのも原因じゃないの?』

『そうだとしても、もう本当に試す人間がいなくなってしまったもの。無理よ』

『じゃあ新しく作り直すしかないわね、世界』

『そうします。……あーあ、せっかくここまで続いた世界だったのに最後は呆気なかったな』

『そんなのどこの世界も同じじゃない。何を今更』


どこかの時空で、そのような事を話しながら、地球だったものを丸めてゴミ箱に捨てた存在がいたのだが、それを知る者は誰も居なかった。


めでたしめでたし

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