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2. 拾われた男


『拾われた男』


昔むかし、あるところに1人の男がおりました。男は、生業を持っていませんでした。日が昇ってから沈むまでの間に、なんとかその日の日銭を稼いで暮らしておりました。


ある日のことです。その日治水工事に従事していた男は、その日の配給を受け取る列に並んでおりました。無事に今日と明日食べるだけの米と少しばかりの銭をもらい、荒屋へ帰ろうと踵を返したときでした。

「新しいことをしたくないか」

そう後ろから声をかけられました。男は振り向きましたがそこには誰もいません。「気の所為か、俺ももう末期だな」そう独りごちたときです。

「ここだって」また、声がして、何かが男の背後にある木から落ちる音がしました。

「何だ、ガキじゃねぇか」

「そんな事言うなよ。新しいことをしたくないか」

「はぁ、んな事できるならとっくのとうにやってらあ」

そう男が言うと、子供は自慢げに言いました。

「出来るから言ってるんじゃないか。俺のとこは働けば働くだけ報われるとこだ。今日ずっと見てたがおっさん、ここで1番の働き者じゃないか。そんなおっさんが他の奴らと同じだけの報酬じゃ割に合わないって」

男には不満がありました。毎日必死で働いているのに、その日何とか暮らせるだけのものしか手に入らないからです。男は本当の自分はもっとできるという自信がありました。だから、自分がガキと言った子供の言葉に「別に行くとこもねぇし、行ってやらんこともない」と返したのです。

子供に連れて行かれた先は大きな城、の一角でした。漆喰に瓦屋根の建物群を抜け、天守の真横を通った先にあるそこは、田畑と家がありました。男が今朝まで住んでいた荒屋ではありません。まるで高慢ちきな庄屋がいるような立派なお屋敷です。

「今日からここがおっさんの家と畑だよ。俺もたまに様子見に来るし、好きにやってよ」

男はようやく自分が認められた、と感じました。そこでの暮らしは素晴らしいものでした。男は子供の期待に応えようと田畑の手入れもさを欠かさずに続けました。遂には稲がたわわに実り、畑でも作物が豊富に採れるほどになったのです。週に一度は必ず様子を見に来る子供も「やっぱおっさんに声掛けて正解だった」と満足気です。「来年はこれ以上の豊作を期待してるよ、おっさん」そう言って子供は去っていき、男は褒めの言葉に歓喜で打ち震えました。


「いや、こいつがいると楽だよね」

「ね、狸なんかにヘコヘコしてさ」

「でもこいつ幸せそうだしいいんじゃない」

「だね。何もしなくてもオイラ達の食べ物が手に入るんだし」

「お互いに利のある関係ってこと」

人っ子一人居ない山の中、一人朽ち果てそうな荒屋で熟睡している男は、周りでそう話している狸たちに気づくこともなく、今宵も夜は更けていきます。


めでたし、めでたし。

ありがとうございました。

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