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1. 約束


『約束』


昔々、あるところに、貧しい男がおりました。

男が海の岩場へ貝を採りに向かうと、海に人間の頭が浮かんでいました。男は人が溺れていると思い、すぐに駆け寄り、「おい、あんた、早くつかまれ」と、手を伸ばしました。その頭をよく見ると、たいそう美しい娘でした。娘は手を出さず、男から離れました。そのとき男は娘の腰から下を見てしまいました。それはまさに魚の体でした。娘は人魚だったのです。男が驚いていると、人魚が男に話しかけます。

「おねがいです。私を海から連れ出さないでください。約束してくださるなら、毎日魚を採って差し上げましょう」

男は答えました。

「本当にそれだけで、毎日魚をくれるのかい。よし、約束しよう」

それからというもの、男は毎日人魚のもとへ向かい、わずかな魚をもらう日々がしばらく続きました。


ある日、殿様が「人魚の肉を持ってきた者には、ほうびをやる」というおふれを出しました。殿様に人魚を差し出せば、人魚との約束を破ることになる。ほうびを貰えば、一生遊んで暮らせる。そのようなことを考えながら、男は人魚のもとへ向かいます。人魚はいつものように魚を持って男を待っていました。男が人魚に近寄ると、人魚は男に魚を差し出しました。そのとき、男は人魚の腕を掴み、海から引き揚げようとしました。人魚は「やった、やっとかかった。良い人間からは何も奪ってはいけないというしきたりがなければ、もっと早くできたのに」と言うと、両腕で男の腕を掴み、男を海に引きずりこんでしまいました。そして、人魚は男の腰を鋭い石で何度も何度も切りつけました。海の中では男はどうすることもできず、そのまま気を失ってしまいました。


男が目を覚ますと、男は海に浮かんでいました。あたりを見回すと、人魚はもういませんでした。男が岩をよじ登って陸へ上がろうとしても、うまく上がれません。それからすぐに、殿様の家来が男のもとへやってきて、男を陸へ引き上げました。

「いやあ、助かった。ここの海に人魚がいたんだが、逃げられてしまって」

男がそう言うと、家来は「ああ、たしかに人魚がいるな」と言いました。

「目の前に」

男はその言葉であたりを見回しますが、やっぱり人魚はいません。まさか、と男は自分の腰から下を見ると、そこに足は無く、かわりに魚の体がありました。男は訳がわからずうろたえていると、そこへ娘がやってきました。その娘の顔を見た男は言いました。

「お前、人魚じゃねえか。何で足が生えてるんだ」

男は家来に向かって叫びました。

「おい、こいつを捕まえてくれ。こいつが人魚だ。俺は人間だ。頼む、信じてくれ」

娘は「彼は嘘つきなんです。早く連れていきましょう」と家来に言いました。男の叫びに耳を貸さず、娘と家来は人魚を連れ、お城へ向かいました。それから娘は、殿様から沢山のほうびを貰い、幸せに暮らしたといいます。


めでたし、めでたし。

ありがとうございました。

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