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中編

「どうなってんだァ!?」


 人知を超えた出来事に思わず車の外に出る。何が研究所から逃げ出した女子高生だ。ただのバケモノじゃねえか。ショットガンを構えてハンドグリップを引く。薬莢が排出され地面に転がった。


「喰らえ!」


 トリガーを引くと肉片と共に、再び女子高生が吹っ飛んだ。――だが、やはり生きている。続けて3発撃って女子高生の肉体はボロボロになり、肉片も辺り一面に散った。だが、その肉片は1つ1つが自己増殖をして鍾乳洞のつらら石を逆さまにしたような形で大きくなっていく。人の姿になるのに時間はかからない。


 やがて女子高生の本体が這い上がるように立ち上がり、虚ろな目でこちらを睨む。しかし反撃するつもりはないようで、突っ立ているだけだ。


「おいおい、こりゃどういう……」


 その時、電話が鳴った。相手は役人だった。


『あ、どうも。写真を拝見しました。今はどんな状況ですか?』


「どんな状況もクソもあったもんじゃねえ! 鉛玉ぶつけても死にゃしねえ! 飛んだ肉片が増殖もしてるし、一体どうなってる!」


『あー、それは困りました。想定しうる内の最悪な展開です』


「どういうことだ?」


『詳しくはまた後で説明します。ここは一時退却してください。合流先はすぐに連絡しますので』


 殺し屋が人を殺せなくちゃ意味がない。ここは役人の言うことに従う他なかった。女子高生を一瞥すると車に乗り込み、役人から送られてきた住所へと向かった。




     *




「……国立人体科学研究所」


 大層立派な名前の付いた巨大な施設のようだが、その景観は見るに堪えない。建物のコンクリートはいたるところが零れている。ツタや雑草が生え放題。10年近くは人の出入りが無いのではなかろうか。


「いやぁ、壇ノ浦さん! ご無事でなによりです」


 軽トラでやって来た役人はペコペコと頭を下げながら車を降りた。


「あんなの死にかけた内にも入らねェよ。それよりも、あのバケモンは何なんだ。此処に呼んだ理由も説明するんだろうなァ!?」

 

「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ。説明は、この施設の中で一緒にしますので」

 

 役人は錆びた鉄製のゲートの鍵を開ける。ギイィィと重い音を立ててゲートを開き、役人と壇ノ浦は施設へと進んだ。




     *




 施設の中は薄暗く、役人が持ってきた懐中電灯が無ければ足元に落ちている瓦礫に躓くぐらいだった。


「それで、この施設は一体何の研究をしていたんだ?」


「この施設は国立人体科学研究所と言います。それは入り口にも書いてありましたね。国が建てた人に関するあらゆる研究を行っていた施設です」


「あらゆる研究……それは非人道的なことも含まれていたのか」


「その通りです」


 役人は素直に頷いた。


「表向きは人間工学の研究や、スポーツ理論についての研究を行っていましたが。しかしその裏では、倫理を外れてこそ人類の進歩あり、という信念のもと国民には到底理解されないであろう研究が行われていました」


「……話が見えてきたぞ」


「それは結構。では、地下にある目玉として研究されていたものをお見せしましょう」


 エレベーターの前で立ち止まった。呼び出しボタンの下にある黒い枠に、プラスチックカードをかざす。すると、デジタルインジケーターに『認証しました』と文字が表示され、ドアが開いた。


「電気通ってたのかよ」


「このエレベーターと地下施設は屋上の太陽光発電の電力で賄われているんですよ」


 エレベーターに乗り込むと扉が閉まり、ガタガタと不気味な音を立てながら下に向かって動き出した。


 体感3階床分ぐらいの時間をエレベーターで過ごしただろうか。ドアが開くと全面白い壁に覆われた空間が現れた。地上の荒れ具合と比べて、此処は掃除が行き届いているように綺麗だった。


「本来であれば、私1人では来れたものじゃありません」


「どういうことだ?」


「実験を繰り返した結果、この国は、危険な生き物たちを生み出してしまいました。その1つが昨夜、壇ノ浦さんが遭遇した人間のカタチをした怪物です」


「……その1つってことはまだまだあんなのがいるのか」


 役人と壇ノ浦は床に書かれている矢印の方向へ導かれるように進む。


「いつでも戦える準備をしていてくださいね。施設が放置された間に、脱走した生物が何体かいます。だから私1人で来れたものじゃないと言ったんです」


「チッ、ボディーガード代わりかよ」


「すみません、壇ノ浦さんに対して予算が下りても私には下りないので」


 NB21という表札が書かれた扉の前で役人が立ち止った。


「ここで、あの怪物は生まれました」


 中に入ると、ベッドと仕切りのカーテン、それに小さな丸テーブルが置かれていた。まるで病院の個室だ。


「10年前、ここに心臓の病気を持った女子高生が運ばれました。彼女は余命半年と宣告を受けたのです。家族は若くして他界し、唯一の親族であった叔母は認知症を発症し、自分の孫の顔すら覚えていませんでした。そんな彼女は、研究対象としてはピッタリ逸材でした。終末医療という名目で此処に運ばれた彼女は、再生細胞の実験に利用されるようになりました」


 役人はベッドに近づくと、シーツに触れてから腰をゆっくりと下ろした。


「最初は開発途中の試薬が上手く作用し、彼女の延命処置として良い成果を生み出しました。しかし、経過観察中にその薬品がとある副作用を引き出すことが判明しました。——それが、自己増殖です」


「あの分裂するヤツの正体か」


「はい。心臓の病を多重の細胞分裂により克服し、およそ3gの質量から同一個体を生成することが分かりました」


「それで、銃弾がぶち抜いた肉片から増殖したってわけか」


「彼女を倒す方法はいくつかあります。水に沈めて窒素させる。あるいは塵になる程度に切り刻む。高熱で溶かす。どれも分裂体と一緒に行わなければ意味がありません」


「だったらその情報を最初から教えてくれよ。分裂せずに殺せただろうが」


「……そんなこと知っていても意味が無かったんですよ」


「どういうことだ?」


「彼女は既に、分裂体を100体以上生成しているのですよ」


 

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