金海セツ菜の選択
「正直私は海上要員になるの怖い。けど、一兵がそうしたいって言ってるんだし、パートナーの意見を尊重するってのが、私の選択。と言うより一択なの。一兵は目標を持たずに防衛医科大学校に入学した私に目標をくれた。並木のモヤシ娘なんて、馬鹿にされていたけど、歯を食い縛って頑張ったわ。」
「そうだな。セツ菜は頑張った。」
「でもここでは私が大財閥の長女である事を気にする必要もなく、とっても居心地が良かった。高校の進路指導の先生にはこう言われた。」
「金海?この学校何する所か分かっているのか?」
「って何度も何度も聞かれた。それでも私は人を守れる強さと医術を身に付けたかった。それで防衛医科大学校を進路先に選んだの。」
「それは初耳だね。」
「だって一兵にこんな事を話してもしょうがないじゃない。」
「いや。俺はセツ菜の過去も知っておきたいよ?それに俺が知らないセツ菜は山ほどいるよ?」
「本当?」
「ああ。普段はそんな折り入った話はしないけど、俺達出会ってもう3年になるんだぜ?結婚だって、セツ菜の為に俺は尾崎の姓を捨てた。お互いの事をもっと知りたいよ。」
「そう一兵が言ってくれるのは凄く嬉しい。私も一兵の事をもっと知りたい。」
「まぁ、そんな事も大事だけど、海上要員としていっぱしになる方が先決だな。」
「うん。訓練も勉強も頑張る。」
「訓練もよりハードでより専門的になる。今よりもっとスマートでタフな防衛医科大学校学生になる必要もある。」
「そんな覚悟が無ければ、一兵についていけないもんね?」
「道は色々あるよ。けれど今は進路決定期だから、陸海空いずれかの選択肢の中から一つを選ばなきゃ駄目なんだ。今更あがいても、教官達はもう遅いと言うだろう。それだけ時間をかけて、適正を試されて来たんだ。セツ菜にはその適正があったんだよ。そうじゃなければ、ふるい分けされて教官から、君には無理だから諦めろ。と言われるはずさ。」
「それが筋ってもんさ。セツ菜には安全性を考慮すると航空要員になって欲しかったけれど、セツ菜が海上要員になりたいって言うなら夫として止めたりはしない。」
「そうなの?」
「陸上要員や航空要員は必ず駐屯地や基地に戻ってくる。だが海上要員はそうはいかない。洋上や潜水艦の中で一夜を過ごす事もザラだ。」
「分かっているよ。そんな事位。でも人事も夫婦で海上要員って事は考慮してくれるでしょ?」
「甘いな。人事を尽くして天命を待とうが、医官は数も限られてる。どこまで配慮してくれるかは、全ては海上幕僚監部の匙加減次第だ。」
「そんな感じ?」
「ああ。」
と、セツ菜は海上要員に成る事を覚悟した。自分で決めた事である。恥じる事なく過去の自分から脱却し、一兵に告げたセツ菜に怖いものは無かった。残りの3年間で、海上自衛官の幹部候補生として学ぶと言う選択肢を選んだ。決して楽な道ではないが、それを選んだのもセツ菜自身である。部下に慕われる医官になりたい。と、セツ菜は考えていた。まぁ、そんな事よりまずは医師国家資格に合格する為に全力で勉強しなければならない。先輩達が当たり前の様にやって来たように、そこでつまづく訳にはいかない。恋も進路も固まりようやく、勉学に集中出来る様になったと信じたいセツ菜であった。