金海一兵の選択
「ねぇ一兵?何で海上自衛隊なの?」
「海にはロマンがあるんだ。」
「ロマン?」
「そう。日本海軍の紡いできた夢があるのさ。」
「私ついていって大丈夫かな?」
「大丈夫。長期航海で離れ離れになる可能性はあるけど、その辺は海上幕僚監部つまり人事で考慮して貰えるはず。」
「一兵?全然説得力無いんだけど?ますます不安だわ。」
「大丈夫だよ。」
「山川君?」
「海上自衛隊は、潜水艦とか南極観測船とか特殊な領域もあるけど、全国に拠点は5つ。5個地方隊のいずれかに所属する事になるだろうから夫婦で医官ってのはかなり稀な事だけど、セツ菜ちゃんが思っているより一兵は、その辺りの事はしっかり考えてくれているはずだよ?」
「そうなの一兵?」
「勿論じゃないか!夢やロマンも大事だけど、ちゃんと現実を見てやっているつもりだよ?」
「こうやって、防衛医科大学校学生と言う選ばれし者になれたのは、これまでの努力が実を結んだ証拠だよ?」
「私はただ、一兵と一緒にいたくて努力しただけだよ?」
「例えどんなに離れようともセツ菜への愛は消えないよ?」
「それに、研修医の2年間は同じ職場だし、幹部候補生学校も同じだから、部隊配置になるまでは何も心配要らないよ?」
「でも決めるのはセツ菜だよ?今ならまだ間に合うよ。俺は海上要員だけは譲れない一線たからさ。」
「うん。分かっているよ。一兵が海上自衛官にどんなになりたいかは。そこに一兵のロマンがある事も。将来的には金海グループの後継者になるのかもしれないけど、パパは一兵のやりたいようにやらせてくれるはず。」
「そんな先の事まで考えてくれてるのかよ?」
「まぁね。」
「セツ菜は本当はどうしたいの?」
「一兵のそばに居たい。ただそれだけ。」
「じゃあ一緒にロマン感じようぜ!」
「うん。」
「お義父さんだって分かってくれるって。」
「そこは自信ない。パパは頑固だから…。」
「大体、医官はメスも銃も扱うんだぜ?そんなおっかねぇ仕事に理解してくれる財閥のトップは日本中を探しても金海グループ以外のどこにいるってんだよ。」
「そう言えば、そうね。パパはああ見えて懐深いから。」
「星の数ほどいるセツ菜の夫と言うポストにおさまるのが俺とは運命の神様は相当な変態だな。つーか物好きだな。」
俺の選択は間違っていない。セツ菜とのプライベートな時間を大切にするなら、俺は間違いなく陸上自衛隊を選んでいた。どんなに離れていても、セツ菜を愛し海上自衛官である事を誇りに思える。そんな日が来る事を信じている。防衛医科大学校に入学した時から、セツ菜に恋していた。それより前から海上要員になるという事だけは決めていた。島国日本においては海上自衛隊の果たす役割は非常に大きい。洋上に出てしまえば、頼れるのは己の身だけである。医官たる海上自衛官には様々な事が頭に入っていなければならない。それを、4年次から追加で学習していくのであるが、金海一兵の選択は海上要員一択であったし、周囲(教授・教官)も認めていた。




