山川の恋②
「そう言えば、山川と良子さんの馴れ初めって聞いてなかったよね?」
「そんな事聞いてどうするんだよ?」
「良子恥ずかしそう。」
「セツ菜?怒るよ。」
「テヘ?」
「聞かれたくないな。」
「そう言わず、俺達の仲じゃないか?」
「仕方無いな。話すか…。」
「俺と良子が出会ったのは、3歳のまだ小さなガキの頃だった。保育園の同じクラスで、親同士も仲が良くて俺の遊び相手はいつも良子だった。やりたくもないおままごとをやらされた。内容は兵隊ごっこ。でもやってみると案外面白かった。」
「そう言えば、つよし楽しそうにしてた。」
「小学校に上がってもやってた。兵隊さん、兵隊さん今日は何をするのですか?って感じで。」
「はい。中隊長!今日はスコップで雪かきをします。とか、オプションはいくらでもあった。小学校高学年になると、ミニバスを始めて、互いに過ごす時間は少なくなって行った。」
「それでも誕生日会やバレンタインデーにはケーキやチョコレートを交換していた。中学生になると、思春期真っ盛りだったが自然と躊躇わず付き合い始めた。クラスが違っても、同じ高校に行く為に二人で猛勉強した。愛のモチベーションも自然と高まっていた。」
「その努力の甲斐もあって、見事に進学校の公立高校に合格した。防衛医科大学校ではなく、防衛大学校への進学を考えたのもこの時期であった。だが防衛医科大学校に進学をする事はお互いに考えていなかった。でも進展はあった。」
「自衛隊の?」
「いや、恋の。もし、防衛大学校に受かったら結婚を前提に付き合いたい、と。」
「どっちからそう告白したの?」
「つよしからだよね?お互いのプライベートな事は常につよし発だった。」
「お互い部活をやっていたから、それなりに離れる時もあったし、クラスも違ったけど、それは互いの良い距離感を保つのに役立っていた。転機は高校2年の時に行った並木祭。」
「え?高校時代に並木祭行くのってかなりレアじゃない?」
「って思うでしょ?でもネットで調べたら防衛医科大学校の事全部載ってた。でも防衛大学校よりハードルの高い防衛医科大学校に合格する学力は、高校時代の俺達ではかなりギャンブルだった。だから、防衛大学校と防衛医科大学校の両方を受験した。まぁ、どっちかに引っかかればラッキー位にしか、思ってなかった。」
「並木祭に行った直後からは、お互いの家で猛勉強した。」
「最初はC判定だった模試も、高校3年の夏にはA判定をもらって二人で防衛大学校に行けると思っていたが、防衛医科大学校だけは、ずーっとE判定のままであった。良子でもC判定を得るのがやっとで、防衛大学校本命防衛医科大学校ギャンブルってのが俺と良子の間では鉄板だった。」
「でも受験直前の模試だけは違った。良子は防衛大学校も防衛医科大学校もA判定で、俺も防衛大学校はA判定防衛医科大学校はB判定だった。まぁ、この試験に落ちれば就活を始めねばならず、運命をかけた人生最大の大勝負であった。」
高校3年の秋。少し早いが防衛大学校と防衛医科大学校の受験した。結果は良子も俺も桜の咲く結果になったが、身体検査がある事を知っていたため、気分転換にランニングして体を仕上げていた。
「へぇ。初耳ね。」
「まぁ、その学力が無きゃ、防衛医科大学校でクラスヘッドにはなれないんだよ。」
山川の恋は後の結婚への伏線回収となり、結実したのである。




