一兵の恋②
もう自分の恋はセツ菜と結婚した事で成就したと満足している自分がどこかにいた。しかし、セツ菜が好きだと言う初心を忘れてはならないと思う出来事があった。
とある日の何気ない一幕であり、それは世間一般のジェラシーと言うものであり、それが一兵のセツ菜に対する恋心の炎をメラメラとさせた。他の防衛医科大学校男子学生と楽しそうに、食事をセツ菜がしていたからだ。約束の時間に5分遅れた一兵が悪いのだが、たまには一兵や山川夫妻から解放される時間もあっても良いのかもしれないが、それがセツ菜の浮気心をくすぐるのはまずい。そんな事で喧嘩するのは嫌だった。
と言う事でこの件は黙認する事にした。お互いの為だとも思った。束縛はしたくないしされたくない。日課の状況により昼飯だけは、どうしてもラグが出来てしまう。これは仕方がない。朝と夜はマストで食えるので、心配無いのだがセツ菜が誰とどんな会話をしたかさりげなくチェックしている。セツ菜は素直と言うか馬鹿正直だから、○○学生と××学生と雑談しながらランチしたと報告している。
そう言う干渉は夫婦になったのだから、いらないのだが、一兵は不安で仕方がない。あまりにもノーガードな世界チャンピオンは必ず手痛いカウンターパンチを喰らう。夫婦だからノーガードで良い筈がない。破局を不安に思う一兵はガードを決して疎かにしない。セツ菜が美人で天然であるのも一兵の不安要素である。お互いの良き未来の為にその懸念はどうしても払拭しておきたかった。
「一兵?私友達は欲しいけど一線は越えないから。心配しないで?」
「お、おお。それなら良いんだけどさ。」
とんだ取り越し苦労であった。セツ菜はノーガードではなかった。セツ菜は予防線を張りながら男友達を増やしていただけだった。それを山川と良子に話すと滅茶苦茶馬鹿にされた。
「一兵?お前夫婦の契りを交わしたんだろ?だったら少し位は許容してやれよ。お互い息詰まるぜ?」
「そう言う山川達はどうなんだよ?」
「俺達は付き合いが長いからな。そう言う修羅場はいくつも乗り越えて来たから。」
「早くその境地に俺も行きたいよ。」
「そこはしっかり一兵がリードしてやらなきゃな。」
「そうよ。セツ菜はあんな感じだからがっちり抱き締めてあげなきゃ。あ、でも束縛は駄目よ。」
「うん。ありがとう。参考になった。」
結局、一兵はこのアドバイスをメインにセツ菜と付き合って行く事にした。これは後の海上自衛隊に進んでからも役に立つものであった。必ずしも、同じ職場とは限らない。研修医時代はともかく、本格的に部隊配置になれば、離れ離れになる可能性は高い。それを見越した山川達のアドバイスであった。
「セツ菜?愛してるよ。」
「私もよ。一兵。」
一兵の恋はまだまだ終わらない。それも大事だが、勉強や訓練に力を注がねばならない。その難度は学年を増す毎に上がっている。それでも山川夫妻と一兵とセツ菜は、クラスヘッド(首席)争いを繰り広げていた。学内ではゴッドフォー(神4)等と呼ばれ崇拝の対象になっている。そして二組の夫婦である事も周知の事実であった。




