3年次冬期休暇
案の丈山川に対する村八分による山川の精神的ダメージは流石にこたえたようで、3人に直ぐわびた。3人は即座に村八分を解除した。特に山川が気にしていたのは、妻良子の事であった。結局山川にとっては、この冬休みは良子との関係修復に時間を費やす事になった。
まずは、X'masプレゼントに8万円もしたペアリングを購入した。そう言えば婚約指輪も結婚指輪も買ってやれていなかったから丁度良い機会だと思った。
「ねー?つよし?気持ちはありがたいんだけど、大金を投じてまで買う必要あったの?」
「これはな、良子。俺の男としてのケジメの問題なんだ。」
「相変わらず、面子とか体裁にこだわるのね?」
これを機に山川の財布は良子が管理する事になり、山川は月2万円の小遣い制となった。とは言え、良子もまんざらではなく、嬉しそうに左手薬指にそのリングをはめた。
「つよしにしては上出来ね。」
「へっ。おとといきやがれってんだよ。」
これからどんな任務があったとしても、このペアリングは二人が夫妻であったことの証であるだろう。年末年始は良子の実家正木家で過ごした。物凄く気を使ったが、それでも少しでもポイントを回復しておきたかった。
「つよし君?結婚生活は順調?」
何も知らない良子の母が気を使った台詞を放ったが、とても良子の前で即答は出来なかった。
「まぁ、色々ありますけど何とかやれてます。」
それは事実であった。
「短い冬休みなのにつよし君の実家にも顔出さなくて良いの?」
「はい。年賀ハガキと電話で連絡してますから、御心配には及びません。」
「つよし家族仲めっちゃ良いもんね。」
良子にだけは両親や家族との確執を知られる訳にはいかなかった。
「ああ(苦笑)。」
「そう言えば御義父様は?」
「そう言えば、お父さんどうしたの?」
「インフルエンザで入院してるの。良子やつよし君にうつすと悪いからって、黙っておいてくれって。」
しかし、それは嘘だった。胃癌のstage4で骨転移も見られる事からホスピスに入所して緩和ケアを受けている。それが事実であった。
結局、母の嘘を信じたふりをしたつよしと良子に父の訃報が届いたのは、帰省から2ヶ月後の事であった。享年69歳。正木家の大黒柱が良子の防衛医科大学校入学を一番喜んでくれていた。良子は母の嘘を許した。何故ならば自分が同じ立場なら同じ事をしたかもしれないからだ。
「タバコもお酒も控えてたんだけどね。急に悪くなってしまったから。嘘ついてゴメンね、良子…。」
「全然分からなかった。お父さん頑張ったのね?」
「最後まで良子とつよし君の事気にかけてたよ?」
「学校戻れそうか?」
「うん。大丈夫。」
結局冬休みの後半は喪に伏していた。
「山川?」
「実はね私の父が亡くなったの。」
「え?マジ?すまん。」
「何も一兵達が謝る事はない。」
「いつも通り接してくれるとありがたいかな。」
「分かった。おみやげありがとう。」
「見ざる言わざる聞かざる饅頭って。」
「一兵もセツ菜ちゃんもいつも通りだな。」
「ああ。世界はそう簡単には変わらねーよ。」
「かもな。」




