3年次航空観閲式
9月に入ると秋らしく防衛医科大学校学生にとっては、イベントが目白押しとなる。今回防衛医科大学校学生(1年生~3年生)が参加するのは、航空自衛隊が主催する空の観閲式である。
ブルーインパルスやF-2、F-15、F-35A等、航空自衛隊の主力戦闘機が航空自衛隊入間基地に集められて、防衛大臣や内閣総理大臣や外国要人を招き、一般国民も動員して行われる数年に一度の空の祭典である。
「あーすげー。緊張して心臓が口から飛び出しそうだ。」
「つよし何興奮してんのよ?航空要員だからって。…ってもう全く聞いてないし。」
「やっぱF-15イカすわー!」
「ねぇ?一兵あれ何?」
「あれはPAC-3って言う迎撃ミサイルだよ。」
「海上自衛隊のイージス艦が打ち漏らしたミサイルを地上で迎撃する最後の砦だよ。」
「PAC-3も航空自衛隊が運用しているの?」
「うん。日本全域に配備されているよ。」
「な!良子、航空自衛隊は良いだろ?」
「見た目は格好良いけど…。やっぱ問題は中身だよね。」
「良子ならそう言うと思っていた。でも今回の観閲式で航空自衛隊の見方180度変わるから。絶対!」
「そもそもなセツ菜、日本の領空侵犯機対処するのが、航空自衛隊の戦闘機って訳。これをスクランブル(緊急発進)って言う。日本が世界に誇るエースパイロットが年間600回以上スクランブルしている。一昔前は旧ソ連機に対するスクランブルが圧倒的だったけど、今はその半数以上が中国機に対するものでロシア機や国籍不明機へのスクランブルがそれに次ぐよ。」
「つよし、お腹すいた‼」
「柄にもねぇキャラ出すんじゃねーよ。」
「だって今日朝御飯抜いてきちゃったから。」
「何で?こんな大事な日に?」
「だって航空自衛隊の空揚げ食べられるんでしょ?TVで見た事あってさ。だから朝食抜いてきたの。」
「とりあえず防衛医科大学校学生も休憩すっか?」
「はい。分かりました。午後もよろしくお願い致します。え?午後は雨天中止ですか?はい。了解しました。」
「おーい。防衛医科大学校学生の諸君。予定されていた航空観閲式の午後のプログラムは雨天中止となった。昼飯を食べたら学校に戻るぞ。」
「ラッキー。只の旗持ちなんかもう充分だよ。」
「空揚げ?唐揚げじゃなくて?」
「航空自衛隊では縁起を担いで空揚げって呼ぶらしい。基地毎に特色のある空揚げが食べられるんだとよ。」
「馬鹿にしてたけど旨いな。」
「つよし、おかわり。」
「良子、学校に帰ったら川下一曹にハンバーグでも作って貰え。」
「何?それは聞き捨てならないわね?」
「朝飯抜くからだよ。ったく。」
「山川中隊長?すまんな最後まで残って貰って。」
「いえ。この位朝飯前ですよ。」
「山川中隊長は航空要員と聞いているが?」
「はい。嫁もですが。」
「学生結婚か…。じゃあ今は子供は作れないな。」
「そうなんですよ。であなたは?」
「名乗り遅れたすまんな。航空自衛隊入間基地所属広報部長の枝川三佐だ。」
「三佐ってかなり偉いじゃないですか?」
「偉い奴は学生と話したら駄目か?」
「いえ。そんな事はありません。」
「君らは医官を目指しているのだろう?」
「自衛隊には、色々な医官がいてな。」
「積もる話はまた入間基地に来た時に。」
「バスの時間か?君達は所沢だろ?入間なんて目と鼻の先じゃないか。」
「ご縁があればその時はよろしくお願いします。」
「分かった。じゃあな。」
「はい。失礼します。」
「あ、いたいた。枝川三佐、駄目じゃないすか?防衛医科大学校学生を引き留めたりしちゃ?」
「毎年の事じゃないか?矢合一尉。」
「いくら枝川三佐が入間基地の人事部長兼広報でも、防衛医科大学校学生のリクルートは駄目ですよ。」
「今年の防衛医科大学校学生は見込みがありそうな奴がいてな。」
「決めるのは防衛省ですよ?」
「分かっている。」
「本当ですか?」
「ああ。俺がこの仕事何年やってると思っているんだ?」
「はい。失礼しました。」




