2年次冬季定期訓練②
「今日は冬季定期訓練最終日だ。最終日はフル装備(約20㎏)で雪道50㎞走破に挑んで貰う。貴様らの先輩達も通って来た課程だ。幹部自衛官ならこのくらいやって貰わねば困る。」
「50㎞か…。」
「スプリント勝負では負けていたが、持久戦なら勝てるかもしれない。とにかく、先行して逃げ切る!」
「セツ菜?大丈夫か?」
「一兵君、セツ菜は私が見るから、安心してつよしと首位争いして。」
「分かった。」
「スタート5秒前、4、3、2、1、GO!」
「やはりフル装備はやり過ぎでしたかね?」
「いや、毎年やっている事だ。彼等のスキースキルは、並の陸上自衛官程にまで成長した。辛いかもしれんが、今年の防衛医科大学校学生は優秀だ。高タイムを期待している。」
「ハァハァ。やっと5㎞。まだ10分の1か…。とりあえず飛ばして来たから一兵や追手は来ないか…。先を急ぐぞ。」
「山川はまだ先か…。早いな。やっと4㎞。ハァハァ。」
「セツ菜?まだ3㎞地点よ?ゆっくりで良いから、先へ進むわよ。」
「うん、まだ大丈夫。」
「ハァハァ、8、9、10㎞…。このペースで行けばトップは貰った!ん?」
「教官!?あれを見て下さい。雪崩です!山川がいる辺りですよ?」
「訓練中止!訓練中止!直ぐに学生は駐屯地に引き返せ。一兵学生、貴様はついて来い。」
「はい!」
「ん?雪崩?俺生きてる?立てるか?」
「良子、何かあったのかな?」
「分からないけど、命令に従って駐屯地に戻るわよ。」
「巻き込まれていないと良いんだが…。」
「教官!山川いました!」
「大丈夫か山川?」
「ああ。大丈夫だ。」
「怪我は無いか?」
「はい。」
「とりあえず訓練は中止だ。」
「せっかく良いペースで行ってたのに。」
「教官、これで冬季定期訓練は終了ですか?」
「残念だが終了せざるを得ないな。」
「山川?歩けそうか?」
「凍傷気味でキツいです。」
「分かった。ヘリを呼ぶ。待ってろ。」
バタバタバタバタ。
「一兵、俺の荷物外してくれないか?」
「了解。」
「ヘリに収容しろ!荷物もだ。」
「一兵じゃあ駐屯地で会おう。」
「一兵!貴様も乗れ!」
「良いんですか?」
「良いから早く!」
「了解しました。」
バタバタバタバタ。結局山川の凍傷は軽度で処置も素早く行われた為、大事には至らなかった。とは言え、都合1週間自衛隊中央病院で入院する事になった。
「良子!会いたかったぜ!」
「何だ、随分元気そうじゃない?」
「訓練中止の後どうなった?」
「防衛医科大学校に戻ったわ。具合どう?」
「明日退院して、防衛医科大学校に戻るんだ。」
「ハァ?それなら連絡しなさいよ?」
「入院中はスマホ禁止でさ。ごめん。」
「いやでも、今日会えて良かったわ。元気そうだし。交通費払って貰いますけどね。」
「立替ておいてよ。」
「あのね?私達もう夫婦なのよ?財布は私が管理するから。良いわね?」
「お小遣い制か(笑)。」
「で?今回の入院費用は?」
「訓練中の事故だから防衛省が出してくれるって。」
「そっか。実は昨日まで車椅子だったのよ。何を隠そう。」
「それって軽度の凍傷じゃなかったって事?」
「いや、主治医が言うには大事を見てって事らしい。もう実際ピンピンだしね。」
「早く防衛医科大学校に戻りたいよ。」
「じゃあ私はそろそろ、戻るわね?」
「良子!」
「何?」
「わざわざありがとうな。」
「うん。じゃあまた明日ね。」