2年次冬季休暇
冬休みは14日間と決まっている。年2回ある(6月、12月)2回目のボーナスもガッポリ入り、クリスマスや年末年始と1年の計を過ごす防衛医科大学校学生であった。
一兵はセツ菜と共に、結婚に向けて手続きを進めて、年明けには婚姻届けを提出した。一方、山川と良子は一足先に婚姻届けを提出していた。防衛医科大学校では、学生結婚が可能だが、大抵の場合20歳を過ぎてから入籍する者が通例となっている。結婚はしても式は挙げないカップルが多く、医師免許を取得してから行うと言うのも通例である。
山川と良子は両家に結婚の報告に行って、正木良子は山川良子になった。一兵は金海家の婿養子となり金海一兵になった。一兵の実家にもその旨は了承して貰っていた。二組のカップルは、医師国家資格取得後に合同で、式を挙げる事を約束した。
「おめでとう。良子さん。山川。」
「お前らもな。一兵、セツ菜ちゃん。」
「これで一兵も晴れて金海グループの御曹司だな。」
「別にそんなつもりは…、無いよ。どうするのがベストか二人で話し合った結果だからな。周りにどう思われても関係ない。」
この様に防衛医科大学校では男女共学化をした1985年以降防衛医科大学校学生同士の結婚も、学外結婚も右肩上がりで増えている。学外結婚の方が多いが、学内結婚の方がメリットは多い。部隊にもよるが、一緒にいられる時間が遥かに長くパートナーとの時間を大切にしたい防衛医科大学校学生にとっては、学内結婚がお奨めだが、いかんせん防衛医科大学校は、男社会で山川や一兵の様な成功例は稀である。定員80人(看護学科含む)で男子60名、女子20名。女子にアドバンテージがある。ま、先ずは医官として一人前になってから結婚を考えると言うのがマストである。
「しかし、一兵があの金海グループの婿養子になるとはな?」
「セツ菜のパパの一存で決まったから、俺は何もしてないんだよ。」
「そうなの山川君。パパが半ば強引にまとめあげた話なの。」
「ま、俺としては尾崎の姓にこだわりはないけど、金海一兵って似合わねぇ、つーか何と言うか。」
「未練アリアリじゃねぇか?」
「私は夫婦別姓でも良いよって言ってるんだけどね?」
「つーかそんなのあの父さんが許さないだろ?」
「だよね。まぁ、一兵は一兵だから。」
「そうそう尾崎でも金海でも一兵は一兵だから。友情に変わりはない。」
「ありがとう山川。」
「私にもそれは言えるね。」
「そういやぁ、良子さんの事正木さんって呼んだ事ないかも。」
「私も。あんまり気にしてないよ私達。まぁ、心機一転頑張って行こうぜ!」
「名字は変わったけど、特に生活には異常無いかもね。」
「おめでとう。」
「川下二曹?休日出勤ですか?」
「下士官は盆暮れも正月もクリスマスも返上だよ。働き蜂やな。」
「お疲れ様です。」
「ま、結婚は最初のうちは何とかなるんだ。大変なのは2年目からやな。俺も隊内結婚経験者だからな。これはきっと防衛医科大学校学生にも当てはまる思うねんけどな。」
「先輩の言葉としてしっかり胸に秘めておきます。」
「おう!頑張れ。」
2年次の冬休みはあっという間に過ぎ去って行った。