2年次夏期定期訓練①
2年次の夏期定期訓練のスケジュールは、かなりタイトである。まず富士で野営訓練に10日間参加した後、陸上自衛隊部隊実習を10日間した後、水泳訓練を10日間行う。
「俺、野営って初めてかも。」
「誰が好き好んで野営なんかやるかよ?」
装備品の総重量は約30㎏。10日間生き残る為の水や食糧がほとんどである。
「これ、毎日3食は食えないかもな。」
「かもな。」
「それでは第3小隊の防衛医科大学校のグループは、男子60名の1個中隊と女子20名の1個小隊で訓練をする。内容は至ってシンプルだ。互いに協力しあい、10日間生存せよ。この暑さだから熱中症には充分気を付ける様に。そして、折角野営するのであるから、現役の陸上自衛官1個中隊と模擬弾で戦って貰う。女子学生は男子学生のサポート(後方支援)を行って貰いたい。男子の中隊長は山川‼女子の小隊長は金海だ。作戦は自ら決めろ!シンキングタイムは一時間。それ以後は中隊長の指示の元戦闘に入る。以上、別れ!」
「第1小隊は俺が見る。第2、第3小隊は一兵やってくれるな?」
「OK。つーか模擬弾ってBB弾って玩具かよ。」
「モデルガンも馬鹿には出来ないぞ?」
「ま、とにかくこの旗を10日間死守すればいいんだな。」
「そう言うこと。皆出来るだけかたまっていよう。相手が襲ってきたら散開して敵を一網打尽にする。」
「了解。」
一日目は激しい戦闘はなく両軍様子見と言った所か。二日目、相手の偵察隊員が接近するのを確認。三日目、偵察隊員同士で戦闘が発生。10人を確保したが、こちらは5人が戦闘不能になった。四日目、敵がまとまって部隊に近付いて来た。五日目、遂に敵本隊と遭遇。25人を討ち取り、こちらは12人を討ち取られた。残りは25対43でリード。六日目、水が無くなりそうなので後方支援部隊(女子学生)と合流。
「良子?水あるか?」
「あるわよ、つよし!」
「小隊長?水を補給したらすぐ上に行くぞ!」
「はい。中隊長?相手方全部隊が仕掛けて来たそうです。」
「俺が戻るまでに持ちこたえられそうか?」
「13人が後方支援部隊に向かいましたので、残りは30人。相手方は25人。そこまでの数的不利は無いかと。」
「頼む、持ちこたえてくれ。」
「OK。」
と返事はしたものの、最後の四日間で現役部隊に本気を出され、最終日にゲームセットとなった。
「まぁ、しょげるな。10日間死守出来た防衛医科大学校チームは過去に類を見ない。お前らはあと少しの所まで行けたんだ。胸を張れ。よくやったぞ山川‼貴様の統率力は素晴らしかった。ずば抜けていた。ただ、後方支援部隊(女子学生)とのアクセスが課題だな、金海?」
「はい。」
「10日間よくやった。明日からは平地で部隊実習だ。以上、別れ。」
「くっそお!あと少しだったんだけどな。やっぱ現役の陸上自衛官には敵わないよ。」
「水の補給をスムーズに出来てたら勝てたかな?」
「一兵残しの25対30なら負けないと思ったんだがな。読みが浅かった。」
「あそこで補給しなきゃどのみちやられてたよ。」
「また誉められたわね?陸上自衛隊にすれば?」
「いや、たまたまだ。それに俺は泥臭くとかそう言う汚れ仕事嫌いなんで。」
「全然汚れて無いじゃない。」
「10日間も風呂に入れないとか、マジNGなんで。一兵飯の前にガッツリ風呂入るぞ!」
「おう。」
バシャンバシャン。
「ウォー、マジで気持ち良い。これは癖になったらアカン奴だな。」
「一兵?お前何分風呂入ってんだよ?」
「あーあヤバイ。一時間は流石に入り過ぎか?」
「ま、好きなだけ入らせてあげなよ。一兵君の部隊が粘ってくれたから、最終日にゲームセットになったんじゃない。」
「それはそうなんだけどさ。」