一兵の恋
尾崎一兵は金海セツ菜と入隊した頃から付き合っている。二人とも相思相愛の仲であり、同期で知らぬ者はいない。と、いうのも一兵の付き合っている金海セツ菜と言う女性が、日本で五指に数えられる金海グループの会長の愛娘であるからだ。当の本人達は、ほとんど意識しなくなったが、付き合い立ての頃は一兵が一方的に緊張して顔もまともに見られなかった。敬語で話すのは普通とは言いがたかったが、端から見たらおかしなカップルであった。
転機は体育祭前の入隊したての頃。一兵がアメフト同好会のマネージャーになってくれないかと、勇気を出して頼んだ事に端を発する。セツ菜は快諾してくれたが、一兵と少しでも一緒にいたいと言うセツ菜の想いと、一兵のワガママが交錯する形で成立した愛であった。
定期訓練時も常に一緒にいたし、冬休みにはセツ菜の親父さん(金海グループ総帥)に結婚前提で付き合っている事を断言した。一兵はセツ菜の親父さんに気に入られ難を逃れたが、セツ菜のお母さんは少し複雑そうな顔をしていた。
一兵は本当は、別の医大を受けるつもりだったが、学費なしで将来の幹部自衛官に成れると言う防衛医科大学校の存在を知り出願。筆記試験と面接及び検査を経て合格し狭き門を突破したと言う経緯がある。一浪はしてしまい志望大学にも進めなかったが、結果オーライである。でなければセツ菜に出会う事も無かった。
「一兵!一兵ってば?話聞いてるの?私達もうすぐ2年生に成るんだよ?後輩来ちゃうんだよ?」
「だから何?何を心配してるの?浮気?それならこっちの方が心配だわ。共学とは言え女子学生は全体の25%で、男子学生が75%だ。野郎の方が圧倒的に多い。」
「一兵は私の事好きじゃないの?」
「バカ言え。世界で一番愛しているよ。」
「本当に?」
「忘れたのかよ?告白したのも俺からだし、アメフト同好会に誘ったのも俺からだし、親父さんに挨拶させてくれって言ったのも全部俺から。好きでもない相手にそこまでしないって普通。」
「そんな事より、勉強と訓練ついていけてる?」
「勉強は問題ないけど、訓練がちょっとだけ大変かも。」
「まるで俺の逆。」
「とか言って訓練なんか学年1位だし、勉強だって一浪してる名門の明王高生には簡単過ぎたんじゃない?」
「今の所はそうした学生が多い時期なだけだよ。だってまだ医療系の授業始まったばかりじゃん?」
「まぁ、そうだけど?」
「俺達はまだ卵の中のひよっこ。」
「だから今のうちに勉強してライバルに差をつけて貯金作っておかないと、5、6年生になった時に苦労するんだよ?って進学塾時代に言われた。」
「何それ?受け売りなの?(笑)」
「それに吉永に聞いたんだけど…。」
「誰?吉永って?」
「ああ。同期で看護学科の男友達なんだけど、もう陸海空各自衛隊の選択迫られるって。」
「そっか。看護学科は4年制だもんね?」
「俺達も早めに決めちゃわない?」
「私達はまだ猶予あるでしょ?」
「まぁ、そうだけどさ。ちなみに俺は海上自衛隊志望。」
「一兵がそうするなら私も海上自衛隊にしちゃおうかな?」
「良いのセツ菜?変更不可なんだよ?」
「一兵と同じが良い。テヘ。」




