1年次慰霊祭
並木祭の興奮さめやまぬ内に行われるのが慰霊祭である。慰霊祭は訓練中に事故死したり、任務中に亡くなった自衛官を慰霊するものであり、防衛医科大学校では1973年の創立以来毎年10月下旬のこの時期に行われている。
「あーあ。」
「山川?寝るな‼」
「こう言うイベント好きじゃないんだよね。」
「良いじゃん。課業一日丸ごとつぶれるんだからさ。」
「つーか、赤の他人やで?」
「まぁ、そう言わずに。」
「1年生ならこんな会話してても許されるのだろうが、5、6年生見てみ?」
「儀仗隊…?」
「あんなもんやらされた日にはたまったもんやないで?」
「並木祭もやる気無くなるぜ。」
「安心しろ。儀仗隊は志願制だ。やりたくない奴に強制はしない。」
「野上先輩!?」
「でも儀仗隊に入れば優先的に志望した進路に進めるってのは、有名な話だぞ?」
「そう言う野上先輩は、やらないんですか?」
「儀仗隊は、定期訓練が無い5年生からやるのが定例になっていて、4年生の春休みに2週間みっちり仕込まれて、5年生の入学式でデビューする。だから、俺はまだやれないな。」
「おい!休憩終わるぞ!」
「はい。」
と、昼飯も食べず6時間。現職の防衛大臣も出席した慰霊祭はしめやかに執り行われた。
その日の夕飯時、いつもの4人で飯を食べていた時良子がこんな事を言い始めた。
「私、儀仗隊に入りたい‼」
「やめとけ。儀仗隊なんて楽じゃねーし、やっている人間超絶大変なんだぞ?なぁ、一兵?」
「うん。」
「そんな事分かっているわよ。カッコイイなぁって思っただけ。」
「それなら良いんだけどよ。何かやりたそうなニュアンスだったから、ちょっと肝冷やしたぜ。」
「儀仗隊に入りたいなら、4年生の3月に行われるテストに受かれば、男女関係無く儀仗隊に入れるよ?」
「まさかセツ菜ちゃんもヤル気?」
「私もカッコイイなぁって思って調べて見ただけ。」
「隊員の10%しかなれない(16人内訳5年生8人6年生8人)狭き門だけど、儀仗隊員を2年間務めれば、卒業後の昇進が早くなるって噂を聞いたわ。」
「そんな理由だけでやるなら、止めといた方が良いぜ?5、6年生って言ったら、勉学が一番大変な時期だぞ?そんな時期に事あるごとに防衛医科大学校のイベントに備えるんだぞ?5年生になったら、第二大隊付けになり、生活スタイルも今とは変わるし、相当ハードなのは確かだぞ?」
「うん。でもやってみたい。」
「私も。」
「二人ともそれを知った上でやりたいなんて、信じられん。」
「まぁ、山川の気持ちも分かるけど、当人がやりたいようにやらせてあげようよ?アメフト部の活動も丁度終わる時期だし。」
「まぁ、3年後に今のヤル気が残ってれば良いんだがな…。」
「そうね。でも儀仗隊のテストは受けるからね?」
「好きにしろ。」