6年次卒業式②
「つよし君!良子!」
「お義母さん!?」
「もう。来なくて良いって言ったのに。」
「一生に一度の晴れ舞台じゃない。卒業おめでとう。」
「ありがとうお母さん。」
セレブレーションパーティは普段会えなかった家族と面会出来る数少ない機会である。ただ、一兵とセツ菜の両親は一身上の都合により不参加であった。
「一兵学生、セツ菜学生、卒業おめでとう!」
「川下一曹!」
「と言う俺も今日で防衛医科大学校の食堂で勤務するのは最後なんだがな。」
すると川下一曹は冷やしてあった缶ビールを出し、「乾杯!」と一言言い、晩酌を始めた。
「良いんすか?勤務中に?」
「料理長はいないし、もう作る料理もないしな。片付けなんて誰でも出来るし。」
「なら良いすけど。卒業生と晩酌したのがばれて幹部昇進の話がなくなるなんて事にならなきゃ良いんですけど?」
「何、部下に卒業祝いされるくらいだ。炊事班も人事が一新される。この体制では今日でラストだ。」
「マジすか?もう川下一曹の飯は食えないんですか?」
「大袈裟だがそうなるな。」
「6年間本当にありがとうございました。」
「セツ菜学生?酔ってる?」
「酔っていません。」
「苦しい時や辛い時、嬉しい時もどんな時も川下一曹は私達に優しく接してくれました。」
「それが俺の仕事だからな。料理を提供するだけが炊事班員の役目ではない。まぁ、そんな風になったのは、金海夫妻と山川夫妻の人情に触れたからかな?」
「人情?」
「防衛医科大学校には15年勤務したが、こんなに絆の深い学生はお前らが最初で最後だ。4人とも個性が強いのに、誰一人として同じ者はいなかった。初めてこの仕事をしていて良かったと思ったよ。そんな6年間だった。」
「ああ!川下一曹見ぃつけた!」
「山川!良子さん!」
「ご免なさい。つよし泥酔しちゃって。」
ガツン!ピヨピヨピヨピヨ。
「こう言うのは、正当防衛だからな。」
「なるほど!」
「一番腹わって話したのは山川つよし学生だったけどな。ま、あとは4人で楽しめ。俺は帰る。」
「え?もう帰るんすか?」
「ああ。荷造りしないとな。家族の事もあるし。」
「そうですか。じゃあ俺山川の分も握手させて下さい。」
ガシッ!
「お互い新なフィールドで頑張ろうな!」
「はい!ありがとうございました!」
「私達も握手させて下さい!」
「良子学生君は良い医官になるよ。頑張れ!」
「はい!ありがとうございました!」
「セツ菜学生は医学研究科に行くんだよね?」
「はい!」
「それは勇気のある選択だと思うよ。医官になるだけが人生ではないからな。」
「本当にお世話になりました。」
「山川つよし学生にはよろしく伝えておいてくれ!」
「後片付け頼むぞ三村三曹、二階堂二曹。」
「先輩!もう行っちゃうんですか?」
「飛ぶ鳥跡を濁さずって奴だ。」
こうしてセレブレーションパーティは終わり、いよいよ医師国家試験本番を迎える時が近付いていたのであった。




