6年次進路指導(セツ菜)
「失礼します。」
「あ、君か…。」
「君は医学研究科への進学が内定しているから、こちら(防衛医科大学校進路指導部)としては何もしてやれる事は無いのだがな。」
「相談には乗って貰えますよね?」
「あ、ああ。(金海財閥の愛娘が何でうちの学校に?)で、相談とは?」
「私結婚しているんですけど、夫も防衛医科大学校の同級生なんです。どうにか博士課程を修了するまでの4年間強いてはその先も同じ勤務地を希望しているのですが、どうしたら良いですか?」
「防衛医科大学校を卒業し、医師国家試験に合格してから約2年は研修医と言う形で全国いずれかの自衛隊病院に勤務となる。そこから先は専門医として希望する任地に行く事になる。セツ菜学生の場合は、医学研究科博士課程修了後防衛医科大学校病院で同じ様に2年間を研修医として過ごす事になる。その後に関しては、自衛隊員ではあるが防衛医科大学校の教官あるいは教授を目指すという道もある。つまり、いずれにせよセツ菜学生はこの防衛医科大学校病院で働くのだ。そうなれば後は君の夫である一兵学生がどうするかと言う事で、この相談は解決する。こちらとしてアドバイス出来るのはそこまでだ。」
「分かりました。ありがとうございます。後は夫婦でなんとかします。」
「力に成れず申し訳ない。」
「いえ。」
「…って事なの。」
「大前提として、俺がセツ菜サイドに傾くしか道はないって事じゃん?こんなことなら陸上要員になっときゃ良かったよ。海上要員が防衛医科大学校病院で働けるのか?」
「同じ場所ってのは難しいかもね。」
「大体医学研究科に進学する事直前まで黙ってたセツ菜が悪いよ。」
「ごめん。」
「一言ありゃあ選択肢もあっただろうに…。」
「パパに認めて貰いたかったの。」
「え?お義父さんに?」
「私、医師になるのずっと反対されてきたの。ママの力も借りてどうにかパパを説得して防衛医科大学校を受験したの。一般医大に行く余裕は無かったから、防衛医科大学校を受けたの。今でこそ一兵の存在のお陰で、波風立ってないんだけどね。」
「そんなわだかまりがあったとは…。」
「家の事情もろくに話さず結婚した事は謝る。」
「まぁ、薄薄気付いてはいたけど、もう取り越し苦労だよな。」
「でも私が頑張れば頑張る程、パパは私を認めてくれた。医学研究科の話をしたらもっと喜んでくれた。だから私は一流の医官に成る事に決めたの。」
「なら、俺はパートナーとして支えるよ。」
「本当!?」
「その代わり同じ勤務地ってのは条件から外すよ。」
「離れていても大丈夫かな?」
「大丈夫だと言える様に努力しよう‼」
「良いの?」
「良いも悪いもそうするしかねぇじゃないか?」
「ありがとう。」
「何だよ?泣きたいのはこっちの方だぜ?」
「遠距離にならないと良いんだけど。」
「融通は防衛省もある程度利かせてくれるよ。」
「本当ありがとう。」
「なぁに、お互いリアルな夫婦じゃねーか?お互いに理解し合って前に進むのは当然だろ?」
そんな金海夫婦であったが、まだまだ前途多難の道が続くのであろう、と思われた。




