医学研究科に進む者
ごく少数ではあるが、防衛医科大学校卒業後も任官せず医学研究科に進学する者もいる。セツ菜もその一人だ。医学研究科は一般大学における大学院にあたり、修士号・博士号の取得を目指す。医学研究科は試験に合格さえすれば一般医大学卒業者でも入学が可能である。実際防衛医科大学校医学研究科は、一般医大学出身者が圧倒的に多い。勿論、彼等に自衛隊への任官義務は生じない。だが、防衛医科大学校卒業者は、任官の義務が生ずる。
「で?セツ菜ちゃん追っかけるの止めたの?」
「成績的には俺の方がセツ菜より上だけど、人数制限の枠があるらしく、これ以上は推薦出来ないんだと。」
「枠って何人?」
「5人。」
「しかも先着順だって。」
「まぁ、防衛省自衛隊としては早く現場に出て貰いたいもんな。」
「医学研究科だって税金で賄われる訳だしな?」
「ああ。医師国家試験さえ受かってしまえば任官せずとも二等陸海空尉の給料を貰いながら勉強出来るしな。」
「医学研究科は特例か…。」
「セツ菜ちゃんまだ勉強したいの?」
「勉強したいよ。医学博士が現場にいたら心強いでしょ?」
「研究者は現場よりラボの方が良い気がするけど?」
「そうとは限らないわよ、つよし?」
「良子??」
「博士号を持ったエリートが自衛官になるなんて、そうはないよ?」
「防衛医科大学校卒業者でも充分エリートじゃないか?」
「で、一兵君?セツ菜とは別の道を歩む心境はどうなのよ?」
「まぁ、最大4年間現場に入るのは遅れるけど、セツ菜ならやれると信じてる。立派な論文期待してる。」
「そんな事は聞いてないよ?」
「一兵の気持ちはそれだけ?」
「そりゃあ寂しいけど、現場に行ったら同じ事が生ずるでしょ?」
「確かにな。死別する訳じゃ無いし…。」
「それは山川も良子さんも同じだぞ?」
「夫婦だからって同じ部隊に配属されるとは限らないからな。防衛省に掛け合っても無駄だぞ。」
「夫婦自衛官なんてはいて捨てるほどいるからな。」
「一兵の癖に言ったな!」
「俺はそんな事になっても夫婦関係を保てるかっちゅう事だ。」
「私が浮気?つよしじゃあるまいし。」
「大丈夫だよ。人妻なんてアウトオブ眼中でしょ?」
「変な虫がつかぬようケアせねば。」
と言う訳で今年の防衛医科大学校卒業者のうちセツ菜を含む5名が任官を先伸ばしにして、医学研究科に進学する事になった。




