新居探し(山川、良子)
「新居って言われてもな?まだ辞令が下りた訳でも無いし…。それに当面は幹部候補生学校で過ごす訳だし。」
「つよし、聞いた?セツ菜医学研究科に進学するんだって。だからこの辺りの格安物件をおさえたらしいわよ?」
「この期に及んでまだ勉強したいのか?」
「詳しい事はセツ菜本人に直接聞きなさいよ?」
「で、結局不動産屋に一回も寄らず月の湯で整えて帰ってきたの?バカなの?」
「だって、セツ菜ちゃんがあの化け物の巣窟である医学研究科に進むと考えただけで、汗だくっだくになっちゃってさ。」
「おおげさだけど、つよしなりに最大級の心配をしてるって訳ね?」
「医学研究科の入試なんて医師国家試験よりハードなんじゃない?」
「それがね、ゼミの教授に話したらトントン拍子で話が進んで、まぁ推薦みたいな形で進学内定したのよ。」
「医師国家試験は受けるんだよね?」
「勿論。二尉相当の給料と学生手当てじゃ、雲泥の差があるからね。それに医学研究科に進学する人のほとんどは一般の医大生が占めているの。防衛医科大学校学生は珍しいんだって。」
「で、セツ菜ちゃんは何を研究するの?」
「AIを駆使した外科的アプローチ術とか、かな。」
「とか?」
「修士課程は2年、博士課程も2年あるからね。時間の猶予はあるの。」
「博士が任官となると、階級はどうなるの?」
「一尉で任官だよ。」
「だから、月の湯に近い格安物件を選んだの。一人で住むには間取り広めだし、並木キャンパスからは近いし、ほとんど即決だった。現場に出る皆とは遅れをとることになるだろうけど、私なりに医学研究科で経験をしっかり積んで、良き医官になるのが今の私の目標かな。」
「俺も医学研究科行こうかな?」
「一兵?やめとけ?」
「一緒にいたい気持ちは分かるけどさ。」
「つよし!空気読みなさいよ?」
「もうすぐ最終の進路指導がある。それまでに決めろ。」
「一兵ありがとう。気持ちはめっちゃ嬉しいんだけど、一兵は研究者って柄じゃないわよ。」
「確かにな。卒業まで3ヶ月を切ってるこの時期じゃ、医学研究科を目指すにはちょっと遅すぎたのかもな。でも現場に出るのを躊躇っている自分がいるのも事実。」
「医師国家試験は防衛医科大学校学生ならば、必須だがその先のキャリアまで描いている学生は少ない。正直最長4年任官を先伸ばしに出来るのは魅力的ではある。とは言え、俺が医学研究科に行くメリットは無い。セツ菜だってそう思うだろ?」
「私達は民間人とは違う。だから、離れて暮らしたり、子供が出来ても自由に会えない事もある。でもそう言う人生を選んだのは、他の誰でもない自分何だよ?」
「だから、私と一緒にいたいって理由だけじゃ医学研究科に進学するのは間違っている。もう一度よく考えてキチンと一兵なりの答えを出して欲しいと思う。」




