6年次並木祭①
夏季集中合宿を無事乗り越えた一兵達6年生は、少し早めに季節先取りだが、学生生活最後の並木祭の準備にとりかかった。2027年9月後半の事であった。
「じゃあ今年は例年の流れを踏襲して模擬店は喫茶店って事で良い?」
いつも取り仕切るのは第2大隊長山川つよしであった。
「異議無し。」
「では賛成多数で喫茶店にします。来週までに各自メインメニュー5品を考えておいてください。では本日はこれで解散します。」
「セツ菜?飯行こう?腹へってヤバいよ。」
「つよし?本当に良かったの?一緒に4人で過ごせるの後少しなんだよ?後悔しない?」
「その件についてはもう4人で決めただろ?」
「いつまで耐えられる事やら。」
「ねぇ?一兵は模擬店のメニュー考えた?」
「全然。勝手にしやがれって感じ。」
「何それ?山川君の右腕の一兵がそんな事で乗り切れるの最後の並木祭?」
「コーヒー、サンドイッチ、カレー、オレンジジュース、アップルジュース以上。」
「うわ。ベタだね。完全に置きに行ってる。しかもカレーはレトルトでライスは食堂から調達。サンドイッチに至っては外注って言う。」
「ベタで結構。思い出はもう充分作ったから最後は置きに行く。のもありなんじゃないかと。」
「私はもっと気合いの入ったメニューを考えよう。」
「気合いの入ったメニュー?」
「一兵がヤル気無いなら、私が頑張る。」
「俺は止めないけど、皆の事を考えてやれよ?」
「分かってるって。」
「喫茶店のメニューか…。」
「川下一曹も悩むでしょ?」
「酒もタバコも駄目な茶店に入ろうと思う客がどのくらいいるかだな。何か防衛医科大学校らしい特典…例えば入店者に限定キャップを配るとかな。そう言う施策を試みないと集客難しいんじゃないかな?」
「ですよね。」
「ちなみに去年はコーヒーや軽食が大量に余ってたぞ?客の入りも悪かったみたいだし。そんな最後で良いんですか?と思う位だね。まぁ、医師国家試験本番が近いのも分かるんだけどさ…。」
「それは何か嫌ですね。ちなみにこの話をしたことは山川夫妻には内緒でお願いします。」
「それは良いけど、お前ら4人で飯食う事をしなくなったみたいだけど、何かあった?」
「卒業も近いし、どうせ別の道を歩むんだから今から少しずつ慣らして行こうって決めたんです。」
「お前ら馬鹿なの?今しか一緒にいられないんだぞ!1日1日思い出作ろうって、普通は思うけどな?」
「もう山川夫妻とは思い出沢山作りましたから。それで後悔はしないです。それに今生の別れって訳じゃ無いですし。」
「へぇ!喫茶店か…。でも学内禁煙だろ?」
「そうなんですよ。それが悩みで。だから防衛医科大学校限定のグッズをセットにして、コーヒーやソフトドリンク等を出そうと思っています。」
「さては、一兵にアドバイスしてるの聞いてたな?」
「まぁ、あんだけデカイ声で話してたら…。」
「え?じゃあ部屋でも会話なし?」
「基本そうっすね。」
「それ辛くない?」
「まぁ、いずれ離れ離れに成る訳で。そんな中での並木祭ですから。」
「この時期だけでも休戦したら?」
「正直、良子やセツ菜ちゃんにストレス強いてるみたいで…。」
「じゃあ停戦の仲介は俺がしてやる。」
「川下一曹…。」
「明日のPM2000食堂で待ってる。いいな?」
「はい。」
「つーか、このグループライン使うの久しぶりだな。」
「明日PM2000食堂に集合。」
「ねぇ、これ何?」
「まぁ、指示通り明日食堂に行けば判明するんじゃない?」




