6年次春期定期訓練②
「おぇー。」
「一兵大丈夫!?」
「あぁ。慣れりゃあ大丈夫。」
「何が駄目なの?」
「昔から血を見ると理由は分からないけど発作が起きるんだ。だから外科はNG。他の科に回らざるを得ないって訳。」
「それで精神科に?」
「あーあ。でもこの有り様だ。俺医官になれるのかな?」
「そんな事無いよ。でもどうしてそんなトラウマが?」
「物心ついた頃にはそうなってた。自分の鼻血位で失神しちゃうんだから、他人の血液なんてもう無理。でも限界かもな。」
「そんな事言わないでよ。私だって血は怖いけど我慢して努力いるんだから、私より優秀な一兵がそんな事で医官になれないなんて、納得出来る訳ないじゃん。一応精神科の教授に見て貰える様に予約しておいたから。」
「ありがとう。」
数日後。
「君が金海一兵学生だね?」
「はい。」
「私は防衛医科大学校病院精神科部長の青木直樹だ。よろしく。」
「よろしくお願いします。」
「人間の血液を見ると発作が出て困っているとか?」
「ええ。このままでは医官には成れません。」
「そうだね。医師としては致命的だ。でも安心しなさい。君は優秀な精神科医になりなさい。金海学生の様な医官も少なからずいる事はいる。」
「でも精神科は扱う薬が多くてパニック発作起こしそうなんですよ?」
「処方箋を出すのに必要な事は2つ。1つは患者をよく見ること。もう1つは得られた情報を元にどの様な薬剤が必要な事を瞬時に判断する事。それさえ出来れば、採血はナースに。調剤は薬剤師に任せれば良い。それが君に出来るかはやってみなければ分からないが、君の精神に障害があるとは言えない。恐らくだがPTSD(心的外傷後ストレス障害)によるものだと考えられる。」
「ではどうすれば?」
「薬物療法で経過観察してみよう。」
「分かりました。」
「朝食後と寝る前にお飲み下さい。」
「はい。PTSD…か。」
と、まぁ春期定期訓練を途中で切り上げ8分の1しか出席出来なかった一兵だが、青木部長の口添えもあり、何とかレポートの追提出を条件に単位は貰える事になった。
「え?発作が起きなくなったって?」
「あぁ。グロテスクな映画や手術動画を見ても大丈夫になった。この薬のお陰だな。」
「俺精神科の医官になるよ。」
「そんなの初耳だけど?」
「青木部長にスカウトされたんだ。」
「まぁ、一兵がそれでいいなら良いんじゃね?」
「確かに一兵は薬のお陰でえづかなくしてないかも?」
「じゃーん!買っちゃった。」
「精神科薬剤全集?」
「眠れなかったり不安があるようなら俺が診察してやっても良いけど?」
「そんなもんに頼ってたら医官に成れるか?」
「別に成れるさ。医師国家資格さえ取得しちまえばな。で、春期定期訓練はどんな感じだった?」
「まだ全部の科を回った訳じゃないけど、目指す場所は見えてきたかな。」
「本当?つよしレポート超いい加減に書いて担当教官にマジギレされてたじゃん。」
「あれは俺のケアレスミスだよ。で?セツ菜ちゃんは?」
「私は一兵の発作が治まり安心している。」
「セツ菜部屋でもPTSDの本ばかり読んでたしね?」
「ちょっと良子?」
「セツ菜ありがとうな。」




