最終学年に向けて
「いよいよ俺達も6年生かぁ。」
「だな。」
「そうね。」
「だよね。」
「何とかここまでは来た。」
「でも、まだ気は抜けないは。寧ろ最後の医師国家試験に合格しなければ、この6年間は無駄になる。」
「良子はいっつも当たり前の現実をさらりと言ってくるよな?」
「最終学年になるってそう言う事でしょ?」
「まぁ、そうなんだけどさ…。」
「一番合格に近い奴が何を弱気になっているのよ?」
「いや、別にそう言う訳じゃないけどさ。」
「じゃあもっとシャンとしなさいよ。」
「何か山川と良子さんの夫婦漫才聞いてるみたい。」
「確かに。」
「確かに。じゃないわよセツ菜?あんたが一番この4人の中では危機感持たなきゃいけない成績なんだからね?」
「そこを突かれると耳が痛い。」
「天下の6年生かぁ。」
「そんなに満喫出来るって訳じゃないだろ?」
「まぁ、やる事はやって来てる。各人、苦手を無くせばもっとスコアも上がるはず。」
「そうね。」
「5年生って振り返ってみると、自衛隊の訓練や演習これっぽっちも無かったな。」
「しょうがないよ。そう言うカリキュラムなんだから。」
「とにかく勉強、勉強って感じだね!」
「今何時?」
「PM1800。」
「よし、今日は月の湯でも行くか?」
「行ってらっしゃい。」
「何それ?冷たい事言うなよ?」
「セツ菜?シャワー行くわよ?」
「う、うん。」
「そう言う訳だから男二人で行ってらっしゃい。」
「ポイント貯まって今日は入浴料無料なのにな?」
「よし、行くか山川!」
「おう!」
「ねぇ?良子?本当は一緒に行きたかったんじゃないの?」
「たまには男二人でしか話せない事も有るかと思ってさ。」
「気遣ったんだ。」
「まぁ、つよしにはモロバレだろうけどね。それよりセツ菜?ご飯ご飯!」
「先行ってて。もう上がるけど。」
「良子の奴、気を使ってこんなシチュエーションに。」
「え?」
「いや、何でもない独り言。」
「誰よりも月の湯を愛してやまないあの良子が扶桑寮の簡素なシャワーを選ぶとは?解せぬ。」
「山川?大丈夫?鼻血出てるよ?」
「え?マジ?本当だ。先上がるは。一兵も上がらない?30分も入っているよ?」
「はい、これ。今日は俺のおごり。」
「マジ?雨降るんじゃない?山川がおごるなんて。」
「もうどしゃ降り。(笑)」
「今何時?」
「たまには自分の時計みろよ?PM1930。」
「腹減ったな?今日のメニューは?」
「ハンバーグ。」
「ダッシュで戻るぞ。」
「たまには男女別行動ってのもありかもね?」
「ウダウダのつよしとサッパリしてる一兵君を足して2で割った感じだね。」
「フラットって事ね?」
「お二人さん?」
「川下一曹?」
「そっか。今日はレディースデイか。」
「いや、そう言う訳じゃないんですけど、成り行きでそうなったと言う感じですね。」
「ま、長年夫婦やってるとそう言う時も大切だぞ?」
「川下一曹もやっぱりそう思います?」
「まだハナタレ高校生だったお前らがもう最終学年とはな…。時の流れは早いもんだな。」
「川下一曹はこれからも防衛医科大学校で仕事続けるんですか?」
「ああ。この仕事嫌いじゃないしな。辞令が無い限り俺達曹士隊員は幹部自衛官と違い転勤は無いからな。」
「じゃあ私達の卒業は見守ってくれるんですね?」
「まだ1年有るじゃないか?それに今じゃ俺は防衛医科大学校調理員の中では3番目の古株だ。今更別部隊に俺を配置換えするメリットは防衛省には無かろう。」
「なるほど。」




