5年次先輩の進路
「山川!金海!」
「水竹先輩?」
「久し振りだな?」
「御無沙汰しております。つーかここ防衛医科大学校ですけど、何してるんですか?」
「実は俺は任官せずに医学研究科に進学して、ガンの特効薬について研究してるんだ。勿論医師免許を取得して、二等陸尉の階級はあるけどな。」
「修士課程で2年、博士課程で2年でしたっけ?」
「良く知ってるじゃないか。今は博士課程の1年目だ。とは言え、ほとんどの同期は研修医課程を修了して現場で頑張っているけどな。」
「医学研究科に進学するには、どうしたら良いですか?」
「学門へのあくなき探究心と入学テストに合格する必要がある。」
「やはり入試はあるのですね?」
「筆記と面接試験があったな。」
「もし、博士号を取れたらどうなるんですか?」
「一等陸尉に階級が上がり現場配置だな。もう逃げ場はない。」
「そこまで行くなら防衛医科大学校の教官になったら良いじゃないですか?」
「そう言う逃げ方もあるが、教官枠は俺よりも年輩の医官達で溢れている。だから、現場配置は避けられないんだ。正直怖いけどね。」
「怖いんですか?」
「4年間のブランクはデカイだろ?」
「現場で同期が上官なんてのもザラにある。」
「水竹先輩は来年医学博士になるんですよね?」
「じゃあ俺達と同期になるって事じゃないですか?」
「そう言う事になるな。だがそう易々と博士号は取れないだろうけどな。」
「やっぱり学士号を取るのとは訳が違いますよね?」
「修士号を取るのもやっとだったのに、後1年で博士号を取る自信は無いな。」
「レベチっすね。」
「沢山の先輩や後輩の進路を見てきたけど、自分ほど自衛隊から逃げてる奴はいない。」
「水竹先輩は逃げてるんじゃなくて、勉強が好きなんですよ。」
「まぁ、嫌いではないが、例えそうだとしても自分の今の立ち位置に満足はしていない。」
「良いじゃないですか?先輩の10年で費やされた血税の額に見合った研究で救われる人がいるならそれで、OKじゃないですか?」
「その研究もどん詰まり。って言うかマジドツボ。」
「それでも、いつか結果出ますって。諦めたらそこで試合終了ですよ?」
「医学研究科って何人位いるんですか?」
「分からん。とは言え、防衛医科大学校出身者よりも防衛大学校や一般大学出身者の方が多いのは事実。それも、文転した様ななんちゃって理系の人もいたりする。」
「そもそも医大を卒業して医師になる者が圧倒的に多いのに、ワザワザ医学研究科に進学する人間は変わり者だろう?」
「その変わり者が世の中を良くしたりするんですよ?」
「まぁ、それは否定しない。とは言え後輩にオススメは出来ないのも事実だ。」
「そんな夢の無いような事は言わないで下さいよ?」
「4年間もありゃ階級の一つや二つ上がるだろ?同期が上官なんて全く笑えないぜ?」
「いや、それでも水竹先輩の研究は間違いないはずですよ?ブランクなんて関係ないっすよ。」
「博士号を取った医官。滅茶苦茶信頼出来るじゃないですか?」
「並みの医官に成るだけでも大変なのに。」
「そうか?そう言われると、もう少し頑張ってみるかと言う気持ちになるな。」
「あと少しじゃないですか?水竹先輩。ここで辞めたら本当に勿体無いっすよ?」
「ありがとうな金海。山川。」




