5年次慰霊祭
「14人…。今年度だけで、そんなに多くの自衛官が事故や任務中に殉職しているのか…。」
「まだ増えそうだぜ?」
「つよし、ニュース見てないの?」
「沖縄県宮古島沖で行方不明になったUH-60JAに搭乗していた第8師団長を含む10名の安否不明事故。搭乗員の生存は絶望的と見られるって。」
「第8師団って言ったら、南西諸島を含む九州南部を守る、離島防衛の最前線水陸機動団を管轄する部隊じゃねぇか?その師団長が巻き込まれるなんて…。階級がいくら高くても死んじまったら皆同じだよ。」
「少し信じがたいけど、これが現実なの。」
「確かにね。死んでしまえば終わりね。」
「俺達が学んでる医学も、こう言う事故や事件の前では無力だな。」
「どんなに対策しても、事故や事件で命を落とす自衛官は一定数いる。」
「始まるわよ!慰霊祭。」
「起立。礼。国家斉唱。」
「着席。」
「学長挨拶。」
「ええ、まずは先日起きた陸上自衛隊のヘリ事故で亡くなった自衛官に哀悼の意を表します。この様に死と言うものは任務に当たる上で基本的に隣り合わせであります。その自衛官の命の最後の砦。それが医官なのです。防衛医科大学校は開学以来少数精鋭で医官たる幹部自衛官を輩出してきました。諸先輩のお陰で自衛官の事故や事件は最小限に抑えられています。ですが、こうした事故や事件に100%対応するのは無理です。その救えなかった自衛官の御霊を慰霊するのが、毎年10月下旬の慰霊祭でありまして…。」
(あ~あ。話長いな。この学長話長いんだよ。そう言やぁ。)
「起立。敬礼。」
(いきなり終わんなよ?)
「うわっ。びくった。マジで寝落ちしかけたわ。でもって後は第1大隊長、山ノ井の挨拶か。」
「そう言やぁ去年は俺も体験したけど、カンペあるのを忘れて何言ってたか覚えてなかったよな。山ノ井ファイト!」
「遺族挨拶。」
(え?そんなのあったっけ?)
「今年度より行われる遺族挨拶には、実際に殉職された自衛官の遺族に直接お話いただきます。本年度の遺族代表は宮部治海曹長(一階級特進)の妻で海上自衛隊呉地方隊所属宮部愛三等海曹の御悔やみの言葉です。」
(こう言うお涙頂戴的な事も防衛医科大学校はやるようになったわけ?)
「以上を持ちまして2026年度の慰霊祭を終わります。礼。解散。」
「おい?山川?どうした?」
「いや、宮部三曹の切ない話聞いてると涙が溢れてさ。どーせお涙頂戴なんじゃねーのって馬鹿にしていたけど、そうじゃなかった。」
「つよし?昼御飯食べれそう?」
「あー。ありがとう良子。良子や皆の前で泣くのは初めてかもな。」
「あの山川がグシュグシュ泣くんだもんな。驚いたよ。」
「よっぽど切なかったのね?」
「ああ見えて可愛い所あるじゃん?山川の奴。」
「二人もちょっとはつよしの事見直した?」
「格好悪いけど格好良い。」
「山川!昼飯行くぞ!」
「久しぶりだわ。あんなセンチメンタルなつよしを見たのわ。」
「山川もちっぽけな一人の人間だからな。」
「そうね。」




